第21話

王族から求婚って聞いた時には、んなシンデレラストーリーまじであんのかぐらいにしか思わなかったけど。


嫌なら嫌で断りゃ済む話じゃね?とか、正直ちょっと事態を軽く見てたんだけど。



断りたくても『家』の会社の今後を左右しちゃうかもしれない問題だから、美里もヘタに動けないのか。


なるほど、ね。





「けどさ、今すぐ結婚ってわけじゃねぇんだろ?


時間あんだし、栗山や美里の兄貴達とも相談して打開策考えていったらそれで…」



「、それが…」



「月岡さんは〜、向こうの姉妹校に留学しないか誘われてんだよね〜。」




美里が言いにくそうにしていれば、苺ミルクを飲み終えたトキが口を開いた。


フラミンゴのセリフに目を見開き美里を見れば、悲しげに伏せられた眼差しがそれが事実だと物語っていて。



向こうの姉妹校っつーのは美里の婚約者の居る学校っつー事だよな。


それってつまり、【鈴蘭】を出て行かなきゃいかないって事…?





「私、もうどうしたらいいか分からなくて…」




そう言ってぐすんと鼻を鳴らしたえんじぇるに、俺はその頭をそっと撫でたのだった。



望まない縁談。

親からのプレッシャー。


自分の意志に関係なく瞬く間に決まった婚約。

進められる海外への留学話。



自分じゃどうしていいか分からなくて、悩んで苦しんで、美里は俺からの助言を求めていた。



うん、それに関しちゃ…悩みを打ち明けてくれた事に関しちゃ嬉しく思う。


相談してくれたからには力になりたいって思う。



けど俺は自分の考えを言う前にまず、美里に聞かなきゃいけない事があった。



それは…





「美里はさ、ど…」



「――んなもん分かりきってんだろうが。」




が、その時。


俺のセリフの途中で口を挟んだのは、それまで沈黙を貫いていた強面な同室者で。



後ろのソファーを仰ぎ見れば、そこにはムクリと上半身を起こした大型犬が。


俺の斜め向かいに座るえんじぇるを、ただ真っ直ぐと見据えていた。





「テメェの親が話を進める間テメェは何してたんだ。


自分の主張も口に出せねぇような奴が、他人に意見を仰いでんじゃねぇよ。」



「ちょっ、ノエルちゃん!」




ズケズケと物を言う同室者に、思わず非難めいた声でその名前を呼んだ。



ただ言葉使いこそ悪かったものの、別にノエルちゃんは美里を責めてるわけじゃないってのはすぐに分かった。


だってその口調は相手を脅かすようなものじゃなく、どちらかと言うと呆れの色が強く含まれていたから。

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