第19話

美里のデコに手を当て、その流れでほっぺを手の甲で撫でる。


ん、熱はないっぽい。

大丈夫そう。



そんな俺の行動にフラミンゴから、天然タラシ〜っつー声が飛んできましたが無視しました。


だって今は美里が大事。





「どうした?何かあんなら言ってみ?」



「はっはい、あの、一色さんが仰ろうとした留学生の話なんですが…」




美里は少し躊躇いながらも、俺とトキの視線に促されるように口を開いた。



ポツリ、ポツリと言葉を紡ぐ。


涼しい秋風が屋上に舞い、美里の長い茶髪をふわりと揺らした。





「来週、中東の姉妹校から短期留学生がいらっしゃる予定なんです。


誠さんに朝ご相談したいと言ったのは、その…留学生の方の事でして…」




来週…?短期留学生…?


あー…そういやプリンスがそんな事言ってたような。



異国の文化を学びに来る留学生っつーより、鈴蘭祭に招かれた客人みたいなもんだって言ってたっけ。


どこぞの国のど偉い王族のなんちゃらとか、言ってたっけ。





「それでその方なんですが、その…あの…」



「…俺たち席外そうか〜?」



「いっいえ、どうぞそのままで。


それに一色さんはもう、ご存知のようですし…」




美里が言いにくそうにしていれば、トキが自分とノエルちゃんを指差した。


俺に相談したい話だって言ってたから、遠慮しようと思ったみたい。

二人きりにしてくれようと気を使ったみたい。



けど美里はそれに首を振ると、来週には知れ渡ってしまう事ですし…と苦笑を浮かべながら言葉を続けた。



そして…





「は!?婚約者!?」




美里の口から出た言葉に、俺は目を見開き驚く事になったのでした。





「はっはい、先月縁談の申し入れがあって、それから瞬く間に婚約が決まってしまって…」




美里曰わく、そのどこぞの国のど偉い王族のなんちゃらさんとは、夏休みの旅行先で出会ったらしく。


一度だけ食事に招待され、家族と一緒にお呼ばれされたものの、帰国してそれきりだったらしい。



けど先月突然結婚の申し入れがあり、それからとんとん拍子に婚約が決まってしまったらしい。


つー事はその留学生ってのは野郎なのか…、ってんな事今はどうでもよくてっ!





「う、え、あ、くっ栗山は?栗山はその事知ってんのか?」




たくさん聞きたい事が満載の中、思わず口から出たのはこの場に居ない若武者の名前。


いつも傍で美里を見守り続けていた、幼なじみの存在で。



美里は俺の言葉に頷くと、眉を八の字にしながら口を開き…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る