第13話

両手でバッとノエルちゃんの肩を押しやるも、カウンターに座ってる俺は自由に動く事もできなくて。


近かった顔の距離を、腕一本分に保つのがいっぱいいっぱいだった。



言われなくても分かる、俺の顔はまるで茹で蛸のように真っ赤に染まってる事だろう。



俺の考えてる通りって…!

なにそのエスパー発言!


何かセクハラされた気分なんだけど!

囁かれた耳がめっちゃ熱いんだけど!


つかズルくね!?

その言い方ズルくね!?

どうするって何さ何なのさ!?





「え、おっ俺だよ!?」




同室者のまさかの言葉が信じられなくて、パニクりながらも思わず再確認。



ハッキリ言われてないけど分かるさそこまで鈍感じゃないさ!


俺だってノエルちゃんに関しちゃちとばかりエスパーになったさ!



赤の他人ならまだしも半年以上一緒に居る同室者にんな事言われちゃ、いくら俺でも察しちゃうさ!


じっ自分が今、そーゆー対象として見られてるって事ぐらいいいっ!



けどっ、なっ何で俺!?





「自分の事『俺』って言うし喧嘩だってするしっ!男みたいな顔だし性格だしっ!あっあとそれに…!」



「――…誠、」




ぴゃ!っと。


自分の女の子らしさゼロポイントを挙げていた俺は、呼ばれた名前に全身の毛が逆立ったような気がした。



今までエセオタクだのマリモだの、テメェだのお前だの言われた事はある俺ですが。


普段ツンデレな同室者に名前を呼ばれたのは、これが…初めてで。





「逃がさねぇからな、覚悟してろ。」



「っ…!」




そう言って俺を見据えたノエルちゃんは、久々に見る大型獣の雰囲気を纏っていて。


獲物を捕らえるような鋭い瞳が自分に向けられ、俺は無意識の内にゴクリと唾を一飲み。



今更ながら…本当に今更ながら俺は、自分の同室者がとんでもない男なんじゃないかと再認識したのだった。





「〜っ!ノっノエルちゃん眼科に行った方がいいと思う!」



「あ?何で今ここで目医者の話になんだよ、ムード読めテメェ。」




いっ今時目医者はないよノエルちゃん!

って、いやそーゆー事じゃなくて!

そーゆー意味じゃなくて!



や、つーかつーか!


ムードを気にするなんて、そんなの…!





「そんなのツンデレさんなノエルちゃんじゃないやい!


おっ俺のツンデレさん返して下さいいいっ!」



「……前から思ってたんだが、何だその『つんでれ』って。」




狼の皮を被ったモコモコな羊さんの事だよ!って言ったら、訳分かんねぇと一蹴されちゃった俺なのでした。

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