鈴蘭学園物語Ⅱ【完】

第12話

そんな風に俺が一人しょんぼりしていれば、ノエルちゃんはまた小さなため息を一つ。

なんだよぅ、なんだよぅ。

さっきからため息ばっかなんなんだよぅ、と。

ふてくされながら目の前の顔をじっとりと見つめていれば、ノエルちゃんはゆっくりと口を開き…

｢…嵐の中お前の手を離した時、心臓が止まるかと思った。

あの一件があってから漸く分かった、自分の気持ちが。

俺の『大切なモノ』は、お前だって事がな。｣

｢…うん？｣

パチクリと。

目を瞬かせながら首を傾げる。

ついさっき聞いたセリフと被るその言葉。

ただ気のせいか、さっきとはどこかニュアンスが違って聞こえて…

｢半田の後釜に収まんのは簡単だが、俺はお前の『お兄ちゃん』になるつもりは毛頭ねぇ。

…アイツの事を思い出す余裕なんて、すぐになくしてやる。｣

｢、えっと…？｣

ど、どういう意味なんでしょうかその宣言は。

な、何なんでしょうかこの雰囲気は。

何だかとっても落ち着かないんですが。

つかさっきも言ったけど、何なんでしょうかこの態勢は。

今更ながら落ち着かないんですが。

顔が近くて落ち着かないんですが。

なっ何か…何かっ…

｢それにお前は俺が居ねぇと、寂し過ぎて泣いちまうみてぇだしな。｣

｢なっ泣いてないしっ！｣

フッと意地悪げに口角を上げた同室者に、反射的に言い返す俺。

ノエルちゃん家での俺の『寂しいよ』発言の事を言ってるんだと分かり、頬が羞恥に染まる。

なっ何か変っ…！

ノエルちゃん何か変だよっ…！

言ってる事とか笑い方とかっ…！

雰囲気とか俺を見る眼差しとかっ…！

何か…！そのっ…！

(もっもしかして、ノエルちゃんって…)

い、いやいや。

いやいやいやいや。

いやない、それはない。

ないない、それはない。

…うん、ないとは思うけどさ。

まさかそんな事はないと思うんだけどさ。

単に俺が自意識過剰なだけなんだと思うんだけど、さ。

でっでもさ。

もしかして、これって…

｢ノエルちゃんってさ、俺の事…その…｣

モゴモゴと口ごもりながら、ちらちらとノエルちゃんを見やる。

ただそれから何て続けていいか分からず、すぐに言葉も尻つぼみになってしまった。

が、次の瞬間――…

｢――…お前の考えてる通りだっつったら、お前はどうする？｣

｢っ！？｣

耳元で囁かれたその言葉に、全身の血がかああ！っと沸騰するのが分かった。