第11話

胸に稔った小さな実は、熟れる事なく青いまま消えていった。


もう少しまさやんと一緒に過ごす事ができたなら、この恋の実は赤く稔っていたかもって思う。



でも俺は、ずっとまさやんに甘えてばっかりだったから。


引き止めるなんてできなかった、せめて邪魔にはなりたくなかった。



自己満足って言われてもいい、願いたかった。


まさやんの夢が叶いますようにと、その未来が明るいものでありますようにと…。





「――…お前、俺の事はどう思ってんだ?」



「え?」




そんな風にちょっぴりメランコリックな気分に浸っていれば、再びノエルちゃんが口を開いた。



さっきからずっと質問攻めだな珍しいな、なんて今更ながら不思議に思いつつ。


自分を見つめる同室者の質問を、頭ん中で反芻する。



ノエルちゃんの事…?


そりゃ、もちろん…





「しっ親友、とか…?」



「……」




てれてれと。


また違った意味で頬が赤くなるのを感じつつも、えへへとハニカミながら答える俺。



気恥ずかしさから足のプラプラ速度が上がる。

思わずペチペチと同室者の肩を叩く。


やっだ、何て事言わせるのさ。

もー恥ずかしいなぁ。

ぷらぷらぷらぷら。

ぺちぺちぺちぺち。



そんな風に俺が一人照れていれば、ノエルちゃんはがっくりと顔を俯かせてしまって…





「〜っ、テメェ俺が言った事忘れてんじゃねぇだろうな…!」



「へ?」




ギロリと。


ヤーさん顔全開の大型犬に下から睨み付けられ、心持ち上半身が後ろへと下がる。



えっ、えっ!?


なっ何でそんな怒ってんの!?



間近にある同室者の睨みに困惑しつつ、ノエルちゃんから言われた事を一生懸命思い出す。



んっと…!あの…!


え、えっと…?





「お前と過ごした時間はっ、俺にとっちゃ何よりも『大切なモノ』だった…!」



「あ、うっうん。覚えてる覚えてる。」




なっ何だ、その事か。

ノエルちゃんの実家で言われたあれね。

うん、嬉しかったなあれは。


覚えてる覚えてる。

めっちゃ覚えてる。

だからほら、怒んないで。

ね、ね。



そう言ってコクコクと高速で頷く俺に、はあああっと長い長いため息を吐くノエルちゃん。



…え、つか、ちょっ逆に何か傷付くんですがその反応。


俺の親友発言に肯定も否定もしてくれないとか、何か傷付くんですが。



え、俺だけ?


ノエルちゃん家での一件で、友達から親友への第一歩を踏み出したと思ってたんですが。



…え、まさかの俺だけ?

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