第10話

改めて自分で口に出した事で、ぽぽぽと頬が赤くなる。


そしてちょっぴり、胸がきゅうっと苦しくなった。





「あ?『多分』って何だよ。」



「だっ、だって自分でもまだよく分からねぇんだもん。」




呆れたような表情のノエルちゃんに、少しムキになって言い返す俺。



だってつい最近なんだもん、自覚したの。


つか自覚するも何も、自分の気持ちが何なのか確かめる前にまさやんフランスに行っちゃったんだもん。



初めての事で、自分でもまだ戸惑ってんだもん…。






『――…クロ、俺にとってお前はまさに運命の女だった。』





そう言われて正直舞い上がった。


抱き締められてどきどきした。


すごく、嬉しかった。



けどまさやんの事好きかもしれないと自覚した時には、もう遅くて…。


だからこれが本当に恋だったのかと聞かれると、恋自体初めての俺は断言する事ができなかった。



俺の中に残ったのは別れの切なさと、不確かで淡い気持ちだけ。



それに、今思えば…





(まさやんは、ちょっとだけ三鷹さんに似てた…。)




容姿とかじゃなく雰囲気が。


だからこの気持ちは、ちっさい子がよく遊んでくれる近所のお兄ちゃんに『大好き!』って言うようなレベルのモノなのかもしれない。



単に、憧れの延長だったのかもしれない…。





(話によく聞くような、燃え上がったり周りが見えなくなったりなんて事はなかったし…。)




恋と呼ぶにはあまりに不確かで、淡くはかない気持ちだった。



他と比べたら、とても幼稚な想いなのかもしれないけど。


でもこの感情に名前を付けるなら、それはやっぱり恋心だったんだと思う。



初恋、だったんだと思う…。





「『お兄ちゃん的存在への、憧れからの好き』…ってのが、俺の自己分析です。」



「…ふーん。」




両手をモジモジさせながら。

足もプラプラさせながら。


いくつもの『かもしれない』が俺の中に渦巻きながらも、自分なりに考えてみた結論を口にした。



と…





「告ったのか?」



「…自分でもよく分かってないのに言えるわけないじゃん。


それに、まさやんの夢の邪魔なんてしたくなかったし…」




切なく、寂しく。


甘酸っぱく、恋しく。



はかなく散った恋心の後に残ったものは、未だ俺の胸を締め付けるけど。


自分の気持ちを確かめる為だけに、夢に向かって歩き始めたまさやんを引き止めるなんて事できるはずもなかった。



不確かな自分の恋心より、まさやんの夢を応援したいって気持ちの方が大きかったから…。

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