第9話

ノエルちゃんの心配がおかしいやら嬉しいやらで、クスクスと笑いが止まらない。


そんな俺にムッと眉を寄せた大型犬は、さっきよりも一層真剣な面持ちで口を開き…





「三鷹は女だろうが男だろうが穴さえありゃ関係ねぇし、桐原はお前に惚れてんだろうが。


…何かあったら手加減なしでぶん殴っていい、正当防衛として処理してやる。」




それ、風紀の職権乱用だよね。


なんて、また笑いつつ。



意外と心配性な大型犬を安心させるように、俺はありがとうと頷いた。


ノエルちゃんの優しさが疲れた心に染みる。

何だかちょっぴりむず痒い。



つーか…





「ノエルちゃん何か、まさやんみたい。」




クスクスと笑い混じりに。


一本桜の下でまさやんに言われた事とノエルちゃんのセリフが被って、ポソリと呟いたのはそんな感想。



本当に何気なく言ったもんだから、特に俺は気に留めずにそのまま台所を後にしようとした。


俺の言葉にノエルちゃんが、ピキリと身体を固まらせてしまっていたのにも気付かずに…。



と、次の瞬間…





――グイッ!




「うおっ!?」




いきなり進行方向とは反対に腰を引き寄せられ、ふわりと身体が浮いた。


そのまま流し台の向かいにある備え付けのキッチンカウンターの上に、ストンと腰を乗せられる。



突然の事にびっくりしつつ前を見れば、ノエルちゃんが俺の身体を挟むようにカウンターに両手を付いていた。





「……」



「…?えっと、」




カウンターに座らされた俺は足がプラプラ状態。


目線も少し高くなって、普段は見上げるノエルちゃんの顔が目の前にあった。



…えっと、何かなこの態勢は。





「お前、半田に惚れてたのか?」



「へ!?」




そうして突然の状況に戸惑う中、続けられた突然の質問に素っ頓狂な声が飛び出る。



えっ、えっ!?


なっ何でいきなりそんな事!?



そう心ん中で叫びながらも、パクパクと意味もなく口を開け閉め。


俺に問い掛けながらも、どこか確信めいた声のトーンに思わずどぎまぎしてしまう。





「えっと、あの…、んっと…」




何て答えていいか分からずあたふたと挙動不審。

一気に頬が熱くなるのを感じた。


キョロキョロと視線をさ迷わせるも、ノエルちゃんの両腕が俺を逃がさない。



そして真っ直ぐと俺を見つめる同室者の瞳に、下手に誤魔化す事もできなくなってしまって…







「……うん、多分。」




ポツリと。


小さくそう呟いたのだった。

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