第6話
――こぽ、こぽ、こぽ…
紅茶の香りが白い湯気と共に立ち上る。
素敵王子がカップに紅茶を注ぐ横で、俺は手頃なお茶請けがないか戸棚の中を探した。
疲れた時には甘いものに限るよね、うん。
何かないかなーっと。
「あ、確か貰い物の葛餅が冷蔵庫にあったはずだよ。」
「マジっすか!」
プリンスの言葉にきらりんと瞳が輝く。
いそいそとキッチン横の冷蔵庫を開ければ、四角い箱が目に入った。
と…
「、これ…」
箱に描かれていたのは、
老舗和菓子店【半屋】の商標で。
思わず動きを止め、その箱をジッと見つめる。
そして俺はいつの間にか、冷蔵庫の扉を閉めるのも忘れ一人物思いにふけってしまっていたのだった。
「…あの人の選択には俺も驚かされたよ。
鈴蘭生の間でも賛否両論と、波紋が広がってるようだしね。」
「…みたいッスね。」
俺の代わりに冷蔵庫をパタンと閉めてくれたプリンス。
その言葉に思い出されるのは、ここ一週間鈴蘭生の間で持ちきりになっている話題。
太陽寮寮長の…突然の退学についてだった。
(まさやん、今頃何してるかな…元気にしてるかな…)
大企業半屋フーズ社長令息の【鈴蘭】退学、そして『半田』の家を出た事は学園内の議論の的となっていた。
事の詳細を知ってる人間はごく僅かみたいで、鈴蘭生の多くは単純にまさやんが『家』から自立したって思ってるらしい。
そしてそのほとんどが、まさやんの選択を非難するものばかり。
次期社長への出世街道を捨てるなんて馬鹿だとか。
あと半年足らずで卒業なのにもったいないとか。
世間知らずな愚か者だとか。
親不孝だとか。
それまでまさやんに取り入ろうとしていた人間が、手のひらを返したようにまさやんへの嘲りを口にする。
(うん、見てて反吐が出るよね。
事情を知ってる俺としては、片っ端からごっちんごっちん頭突きしてやりたくなるよね。)
しないけど。
だってそんな奴らにまさやんの志(ココロザシ)が理解できるわけないし、理解してほしいとも思わないもの。ふん。
辛辣で結構コケコココー。
「正直、あの人は俺と同じだと思っていたよ。
微かな可能性になど目を向けず、今ある現実を受け入れる人だとね。」
プリンスの言葉に、皿に葛餅を取り分けていた手が止まる。
隣を見れば、窓の外を見つめる先輩の横顔がそこにあった。
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