in 給湯室

第5話

何代か前の生徒会までは小休憩の度食堂からボーイさん呼んで、紅茶やら軽食やらを用意させてたらしいんだけど。


却って仕事がはかどらなくなるってんで、お茶ぐらい自分達で淹れようぜってなったんだそうだ。



うん、その心掛けは素晴らしいと思うけどさ。


百グラム一万円っつー紅茶に、庶民の俺は感動するより先にドン引きしたよね。



紅茶淹れる度に緊張してんだかんね俺は。


茶葉吹き飛ばさないように必死に息止めてんだかんね俺は。





――シュン、シュン、シュン…




「桐原先輩が『私』って言ってんの、似合ってるけど何かちょー違和感。


…まぁ『俺』が言うのもなんですけど、猫被りは健在ですね。」



「うーん、最早癖かな…。


あの喋り方は一般受けもいいし相手との距離も保てるから、使い勝手がよくてね。」



「つまりあれですね、先輩って意外と人見知りさんなんですね。」



「ふふ、そうかな。そうかも。」




他愛のない雑談をしながら、生徒会室に隣接する給湯室でお茶の準備を整える俺とプリンス。


テンポのいい会話が心地いい。



二人きりの静かな簡易キッチンに、お湯を沸かすヤカンの音が響く。





「ところで生徒会の仕事はどう?もう慣れた?」



「慣れたっつーか、無理やり慣らされたっつーか。」




げんなりとしながら俺がそう言えば、クスクスと小さな笑みを浮かべるプリンス桐原。


笑い事じゃないっすよもー。





「でも黒崎君が役員になってくれて、とても助かってるんだよ。


仕事の飲み込みも早いし、隆義も普段よりよく働いてるしね。」



「…マジですか?あれで?」



「マジですよ。あれで。」




プリンスの言葉に驚き呆れつつ、そのお茶目な返しに笑みが零れる。


ちょっぴり気持ちが浮上する。



足引っ張ってんじゃないかって心配してたから、そう言われるとお世辞でも嬉しい。


壁一枚挟んだ隣の生徒会室じゃ他の新任役員からチクチクとした視線を受け続けてるだけに、プリンスの優しさが身に染みるぜよ。





「分からない事があったら何でも聞いてね、俺でよかったら力になるから。」



「…ありがとう御座います。」




プリンスの好感度がギュンギュン上がるぜ。

爽やか笑顔が眩しいぜこんちくしょう。



そんな中ヤカンが鳴り、俺はポットと人数分のカップにお湯を注いだ。


こうやって先に食器類を温めておいた方が、紅茶が美味しくなるんだって。

美里に伝授されました。



あとは先輩におまかせで。


美里といいプリンスといい、淹れる紅茶が美味いのなんのって。

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