第90話

「今まで龍ヶ崎君と同室になった子は、何人も居たんだけど。


皆、部屋を代わるか学園を辞めるかのどちらかで生徒会としても困ってたんだ。」




でも黒崎君なら彼とも仲良くできそうだね、安心したよ…と。


そう言葉を続けた、栗毛色の髪した眼鏡男子君。



今の短い会話の、ただ挨拶を済ませたっつっただけの俺の言葉を。


どこをどう捉えたら仲良くできそうっつー結論に辿り着いたのか、その具体的な理由は言わないプリンスに口角がヒクリ。



おいおい、言ってる内容ほぼ脅しっぽくなってんぜ。

キリハラ様、段々粗(アラ)が目立ってきてますよ。


…でも、ま。





「はい、大丈夫ッス。


龍ヶ崎も見た目ほど取っ付きにくい感じじゃなさそうだし、話せば分かる奴だと思うんで。」




あくまで見た目ほど、ね。



つい昨日ガンガンに説教して拳骨食らわせて無理矢理分からせた俺が言うのもなんだけど、ね。


それはお口チャックの方向で。



そんな俺の反応にプリンスは、眼鏡の奥でジッと俺を見つめた後。


最後にフッと、小さな笑みを口元に浮かべ…






「…黒崎君はとても、良い子なんだね。」





優しい口調でそう俺に語りかけた、プリンス桐原の。


その眼鏡の奥にある、髪と同じ色の瞳に浮かんでいたのは。



少しの、落胆と。


明らかな、蔑みと冷笑だった――…。













(…キリハラ様は、俺に何をそんなに期待してたのかね。)




あれからすぐ、何事もなかったかのように。


それじゃあまたね、と言って去って行ったエセプリンス。



またとか、御免だし。

なんか精神的に疲れたや。

ふぅ。





(だから苦手なんだよな、あのタイプの奴は…。)




よく言えば好奇心旺盛。


悪く言えば愉快犯。



相手を観察して自分を愉しませる『何か』がないか、探って煽るのが趣味の奴。


俺自身『言いたい事あんならハッキリ言えよ』っつー、腹の探り合いとかが苦手な性格なんで。



相性悪いんだよな、ああいう腹に一物抱えたタイプとは。



ホント…






『――私は、最初から全て見ていたのですよ?』





だったらもっと早くに助けろって話だよね。


あー、タチの悪ぃエセプリンスだったなぁ。

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