第87話
今度こそサヨナラだと、帰んの遅くて大型獣飢え死にしちゃってっかも知んないなぁと。
そんな事を思いながら、俺は確かに王子様に別れの挨拶をした。
はずなんだけど…
「『あの』龍ヶ崎君が同室だなんて、黒崎君も大変だね。」
――ピタリ…
何気なく放たれた王子様の一言に、ドアノブに手を掛けようとしていた俺の動きが止まったのでした。
桐原先輩から出た名前は、ただ今部屋で寝込んじゃってる大型獣の名前。
俺の同室者、…暫定のな。
寮室のドアの横に名札プレートがあっから、王子がそれを見て俺の同室者を知ったんだとしても不思議じゃない。
そんな事よりも、気になるのは…
(……『あの』?)
どんな人間だろうと引っ掛かる、その言い方。
俺は両手に買い物袋四つを抱えたまま、後ろにいる桐原先輩へと向き直った。
すると王子は人好きのする笑みを浮かべながら、更に言葉を続け…
「【鈴蘭】に来ていきなり『龍ヶ崎家』の御子息と同室だなんて、黒崎君も色々と気苦労が絶えないだろうね。
何か困った事があったら遠慮なく相談してね黒崎君、私でよければいつでも力になるから。」
「……」
心底心配そうな口調で、俺に語り掛けてくるプリンス桐原。
ただ、その目はやっぱり愉しそうで…。
俺はそれに気づかない振りをしながら、桐原先輩に『当然出てくる疑問』を投げかけた。
「…龍ヶ崎ん家って、そんなに金持ちなんスか?」
愚問、だとは思うよ。
【鈴蘭】に来るぐれぇだし、俺以外の鈴蘭生は皆大きかれ小さかれ金持ちには違いないだろうしね。
ただあえてそんな疑問を口に出したのは、この王子が否定するだろうなぁって思ったから。
単に『金持ち相手に苦労するであろう奨学生』を、気遣ってるって感じじゃないんだよね。
『龍ヶ崎家』って言った時に、何か棘があったし。
だから、龍ヶ崎ん家って多分…
「君の同室者の
龍ヶ崎ノエル君は…
『龍ヶ崎組』三代目組長の
御長男だよ。」
普通の金持ちでは
ないんだろうなぁって、
予想がつくよね。
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