第86話

結局それから、コンビニでの衆人環視の中。


半ば強制的にお伽の国の王子様を供に、買い物を再開する事になってしまった俺。



周りの視線がチクチクブスブス痛かったのなんのって。


どうやら王子も、コンビニには買い物に訪れていたらしい。

俺が会計してる間に、小さなビニール袋一つ分の買い物をしていた。



んで、コンビニから出た後どうなったのかといいますと。


俺の荷物がちょい多くなって、桐原先輩に運ぶのを手伝ってもらう事に。





「あー…ここまで送ってもらって、アリガトウゴザイマシタ。」



「ううん、鈴蘭生が困ってるのを助けるのは副会長である私の義務だからね。」




気にしないで、と言う桐原先輩はどこまでも王子スマイルを崩さない。



いや、俺一人で運べたんだけどね。

両手に買い物袋二つずつくらい、余裕だったんだけどね。


いくら遠慮してもこのキリハラ様が、笑顔で親切をごり押ししてくるもんで。



ほら、また君に因縁を付けてくる子達が居ないとも限らないから。ね、ね。


ってな感じで。





(…マジで疲れた、最後まで落ち着かなかったや。)




そうやって何だかんだで、太陽寮の俺の寮室前まで送ってもらった今現在。


ここまでの間に、それはそれは色んな質問を俺に投げ掛けてきた桐原先輩。



出身はどこか?とか。

趣味は何か?とか。


どれも当たり障りのないものばかりだったけど、にこやかに見えるその目はやっぱり笑ってなくて。



いや、笑ってはいるんだけど。


俺の事をまるで『観察対象』みたいに、じっとりと見てきて…





(んなに探られても、俺ってば何も珍しいモノは持ってませんよー…)




しかもここに辿り着くまでの間、コンビニ同様すれ違う鈴蘭生の視線が痛いのなんのって…。


あの五人組に絡まれた時とは桁違いに、ドッと疲れたよ。



ま、そんな時間ももう終わりだ。


明らかに育ちの良さそうな二年生男子と庶民代表の新入生女子じゃ、この先関わる事ももうないだろう。





――ピッ、ガチャ…




「それじゃ、俺はこれで。」




花柄カードキーでドアを開け、桐原先輩に持ってもらってた買い物袋二つを受け取る。

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