第84話

王子はそんな五人組を一瞥(イチベツ)すると、誰もが見惚れるプリンススマイルを浮かべた。



ほぅっと、五人組や野次馬連中から感嘆の声が上がる中。


王子は先ほどと変わらぬ穏やかな口調で、言葉を続け…






「私は、最初から全て見ていたのですよ?」




――ピタリ…




今度こそ誰も何も言わなくなり、静寂だけがそこに流れた。


五人組にとって完全に風向きが変わってしまった状況下で、王子は三度ゆっくりと言葉を紡ぐ。





「これ以上の虚偽行為は外部生君でなく、『生徒会』への冒涜と受け取りますよ。


分かったら皆さん、もう自分の寮室へお帰りなさい。」




…生徒会?


俺一人が首を傾ける中、王子はソイツ等にこの場からの退却を促す。



五人組は苦虫を噛み潰したような顔をして、俺をキッと睨み付けた後。


すぐにキリハラ様に一礼して、そのまま足早に立ち去っていったのだった。





(……えっと、)




これは助かった、のか?



走り去って行った五人組の後ろ姿を見送っていた俺は、ひとまずホッと息を吐いたんだけど。


すぐにハッ!と、結果的に一人この場に取り残されてしまった事に気付く。



五人組が出て行った遠くの自動ドアに顔を向けたのままの状態で、再び正面に向き直るのを悩む。


いやだって、前方からビシバシと痛いほどの視線を感じるもんですから。





(いや、うん、でも。


助けてもらった事に、変わりはねぇよな。うん。)




周りの何十人もの野次馬の目よりも、そのたった一人からの視線に身体に穴が空きそうになる。


けどこうなっちまった以上、仕方ねぇよな。



せーのっ。





――バチッ…!




…顔を前に向ければ案の定、ニッコリと微笑んでる王子と目が合ってしまった。


モッサリ前髪で隠れて、相手から俺の目なんて見えにくいはずなのにさ。



あーあ。


余計タチ悪い奴に、捕まっちゃったかも。

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