第83話

男Aを始めソイツ等は、キリハラ様の言葉にフンッと勝ち誇ったような顔を俺に向けてきた。


でも俺は、それどころじゃなかった。



だって、いかにも悲しそうな表情を俺に向けてくるキリハラ様。


けど、その目の奥は…





(笑ってやがる…。)




眼鏡の奥で、愉快犯的な目の色をして笑っているその男。


いや、さっきから微笑みは浮かべっぱなしなんだけどね。

何て言うか、目の奥に冷たい光が見え隠れする。



…この王子、見かけによらずかなりの曲者っぽいな。





――ポリポリ…




(関わりたくねぇ…。)




頬を掻きながら再び悩む。


だって今までの経験からいって、こういうタイプにろくな奴いねぇんだもん。



俺がそんなことを思っていたその時、キリハラ様がまたゆっくりと口を開いた。





「私は、問答無用で暴力を振るう人間は嫌いです。」




その言葉に五人組はまたニヤリ。


けど次の瞬間、その顔は青く染まることとなる。







「――…そして嘘を吐く人間は、もっと嫌いです。」




――ピタリ…




五人組の身体が、一瞬にして固まる。


それにまるで気付いてないかのような素振りで、キリハラ様は言葉を続けた。



変わらず、優しい笑みを浮かべながら。





「今年から設けられた奨学生制度は


『中流家庭の人間と接点のない鈴蘭生の協調性を育む』


という目的で、作られたものです。


――…その外部生君に対して、先程の貴方達の態度は『御挨拶』で済まされるのでしょうか。」





キリハラ様の声色は、どこまでも優しく。


けどその目の奥は、どこまでも冷たく。



そしてやっぱり、どこまでも…愉しそうだった。





「きっ桐原様、僕達は決してその様な!」


「私達はあまりにもこの方の態度がよろしくなかったので、それで…!」




王子の言葉に焦った様子で、五人組は何やかんやと言い訳を始める。


キリハラ様の目の奥の冷たさには、俺以外誰も気付いてないようだった。

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