第80話

っと、アイツ等の事は置いといて…





「――…俺さ、早く部屋に帰りたいんだよね。


これ以上手荒なまねしたくねぇしさ、今日んとこは見逃してくんない?」



「…!」




俺は男Aにだけ聞こえるように、そっとその耳元で囁いた。



五人組の中でコイツがリーダー格みたいだし、男Aが引けば外野もそれに従うだろうと思ってさ。


野次馬の数も増えてきてっし。

これ以上の面倒は避けたいし。

今一度説得を試みてみる。



ああ、俺別に平和主義者ってわけじゃないよ。


売られた喧嘩も、相手がそれなりの奴ならちゃんと買うし。



ただ、今は――…









「お、お前っ。」



「ん?」




腕を捻られたままの状態で、男Aが後ろにいる俺に顔を向けてきた。



また強気に文句でも言ってくんのかなって、思っていれば。


男Aはなぜかそれ以上声を出さずに口をパクパクさせていて、その顔は…





(…?何で赤くしてんだ?)




林檎みたいに真っ赤っか。



えっ何その反応、何そのウブな生娘みたいな反応。


野郎にそんな乙女顔されても、キモいだけなんだけど。





(…でもちょっと、チームの奴らの反応思い出すかも。


ふざけ半分でよくこうやって、メンバーの耳元で俺が囁くっつー遊びしてたっけ。)




男でも女でも皆、面白いくらい顔真っ赤になんの。


何でも周りに言わせると、俺の声って『男前ボイス』なんだって。

耳元で囁くと特に、男の色気が増すんだって。



ま、あくまで内輪のノリだと思ってたんだけどね。


まさか初対面の坊ちゃん相手にも、このおふざけ技が有効だなんて思わなんだ。



ああ、声は男寄りでも性別はちゃんと女の子ですので。


そこんとこどうぞお忘れなく。





(けどコレが有効ならこのまま押せば、コイツも引いてくれっかも…?)




うむ、試してみる価値はあるかも。


そう考えた俺が、再びソイツの耳元で言葉を続けようとした。



…その時だった。







「そこで何をしているんですか?」






そう言って俺たちの間に、


第三者の声が入ってきたのは…。

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