第79話

まさか自分より格下だと思っていた相手に。


ガリ勉だと思ってた奴に避けられた上、受け止められるとは思っていなかったのか。



驚きと戸惑いと少しの怯えが見え隠れする顔で、目を見開き俺を見つめてきていた。


…周りの野次馬も、いつの間にか増えてきてんし。





「…っ離せよ!」




拳を掴んだまま離さない俺に対して、男Aは少し焦った様子で。


それでも仲間四人と周囲の目を気にしてか、強気の姿勢は崩さず吠えてきた。



増えていく周りからの視線に、後に引く様子のない男Aに。


俺はまた吐きそうになったため息を、グッと飲み込んだのでした。





(ホント、事を荒げたくなかったんだよ俺は。


お店に迷惑かけて、コイツ等のせいで出禁になったりしたら最悪だし。)




でもこれ以上コイツ等の相手したくねぇし。

カート君もこれ以上危険な目に合わせたくねぇし。

何より早く帰りてぇし。


二回も殴りかかられたんだから、正当防衛って事でこれくらいいいよな。





「よっと。」



「――っ!?」




俺は掴んだ男の手をそのままに、その身体をクルンと回転させた。


そうして腕を捻り上げ、背中の所で固定したのでした。



よく警官が犯人拘束する時に使うアレです。


男Aは声にならない悲鳴を上げてる。

俺からは見えないけど顔も痛みに歪んでる事だろう。



一応言っとくと。

俺あんま痛くしてないよ。

ちゃんと加減してるっての。

軽く捻ってるだけだかんな。





「っお前、山里を離せよ!」


「そっそうですわ、山里さんをお離しなさい!」


「暴力振るうなんて最低だぞっ!」


「これですから野蛮人は嫌ですわ!」




…男A、山里っていうんだ。


まぁ今更聞いても覚える気はねぇけど。



遠巻きにキャンキャンと吠える男の仲間に、モッサリ前髪の奥から思いっきり呆れの目を向ける俺。


元はと言えば、そっちから喧嘩フッカケてきたんじゃん。

そんな言うんだったら男A助けようぜ、その他四人組。

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