第77話

「…まだ何かあんの?」




自分じゃ気付かなかったけど、多分この時の俺の声はかなり冷めてたんだと思う。


だってほら、振り向いた先に居た男Aがビクッてなって顔青くしちゃったし。



つかやっぱ前髪うぜぇな、視界が悪い。

帰ったら早く髪ピン見付けなきゃな。





「――っ、しょっ庶民の分際で誰にそんな口利いてんだよ!


俺の親は大手不動産会社の社長なんだ、お前の『家』なんか俺次第でいつでも潰せるんだからなっ!」




うん。



青ざめながらそれでも気ぃ強く言ってくるとこは、さすがお金持ちって感じだよね。


親の権力振り回してる所とか特にね。

もちろん嫌味ですけども。



コイツの親が不動産屋の社長だろうが、どうでもいいし。

アパートもう引き払っちゃってっから、家なき子だしね俺。





「そんだけ?もう何もないなら俺行きたいんだけど。」




早く帰りてぇの。


部屋で風邪引きさんな大型獣が待ってんの。



んな風に俺が男Aをまともに相手にしてないってのが、本人にも伝わったのか。


さっきとは反対に、顔を真っ赤にさせると…





「~っ、舐めてんじゃねぇぞ貧乏人がっ!!」




そう大きな声で怒鳴り付けてきました。


後ろの四人もすんごい睨んできてんよ。



コンビニの店員さんや俺たちの他に居た生徒も、何事?って感じでこっち見てきてんし。





――ポリポリ…




(あんま事を荒げたくないんだけどなぁ…)




これが地元のヤンキー相手なら、俺も勝手が分かるんだけど。



太陽寮のパツキン寮長まさやんや、身体がでかい龍ヶ崎と違って。


俺がちょっと小突いただけで骨折れちゃいそうなんだもん、この坊っちゃん風な男A。



相手をどういなせばいいか悩む俺の心情とは裏腹に、男Aのボルテージは独りでに上がっていき…





「このガリ勉野郎がっ!!!」




そう叫んだと思った次の瞬間。


男Aは俺に向かっていきなり拳を振り上げ、殴りかかってきたのでした。



あれ。


何か昨日見たな、この光景。

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