第72話

同情はしねぇけど、別段可哀想とも思わねぇけど。


病人だって事とは別に、何かほっとけねぇって思ってしまった。





――さわさわさわ…




「…コイツにも、見付かるといいんだけどな。」




熱でワケクチャ状態だったにせよ。

あんな龍ヶ崎を見たら思わずにはいられない。



数時間前に会ったばかりの、初めましての他人とは言え。


誰かに心配される事に馴れていない、周り全てを拒絶するように叫んでたあんな姿を目の当たりにしたら。



コイツにも、いつか。


自分の苦しみや悲しみを、分かってくれる存在が。



心許せる、存在が――…













――ブー、ブー



「…ん?」




龍ヶ崎の寝顔を見つめながら、ぼんやりとそんな事を思っていた俺は。


不意に、ジーンズの後ろポケットから伝わる振動に気付いた。



…あ、携帯か。


そういや電車ん中からマナーモードにしてたっけ、解除すんの忘れてたや。

ま、ようやく寝た子を着信音で起こさなくて却ってよかったけど。



黒色の携帯を取り出してパカリと開けて見ると、メール着信が一件。





(あ、三鷹さんからだ!)




表示されていた名前に、テンションが一気に上がる。


両手を使っていそいそと、心踊らせながらそのメールを開くと。



すると、そこにはほんの…短い文章が。






『【鈴蘭】の箱入り共なんかに負けんじゃねーぞ、マコ。』





…へへ、三鷹さんらしい。


さんきゅ三鷹さん、元気出た。

俺、頑張るよ。



三鷹さんの激励メールに胸がジンとして、ニマニマ笑顔を零しながらすぐに返信しようとした俺。


けどその時、三鷹さんのメールにまだ続きがある事に気が付いた。



メールをスクロールしてみて、あらビックリ。








『…部屋に男なんか入れんじゃねぇぞ。』







――スー…、スー…




「……」




俺の部屋で寝息を立てて眠る目の前のヤクザ男を、思わず凝視。



…三鷹さん、エスパー?






第2章前編 スズランの館


~End~

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