第71話
この学園に来るくれぇだから龍ヶ崎ん家も、それ相応の金持ちなんだろう。
金があって名門って呼ばれてる学校に通えて、快適な部屋に住めて。
んなに恵まれた環境に居て、一体何を不満に思う事があるのか。
普通ならそう思うだろうけど、俺は母さんの『周り』を見てっから。
若い頃荒れてた三鷹さんやしのちゃんを幼心に覚えてるから、俺は金持ちがいい事ばっかじゃないって知ってる。
『私も三鷹もちょっと前までは、今の比じゃないくらい暴れ回ってたわぁ。
もう毎日喧嘩、そうする事でしか何も出来ない自分を見てられなかったのよ~。』
それは、しのちゃんが酔う度に必ず聞かせてくれた昔話。
家が金持ちでも、家には帰りたくなくて。
恵まれた環境に居ても、夜の世界に居場所を探してたチームの初代メンバーの面々。
俺は母さんと二人暮らしで、おんぼろのアパートに住んでたけど。
ちゃんと帰る場所があった、迎えてくれる…人が居た。
『ホント、直ちゃんに会わなかったら今頃…。
私も三鷹も他のみーんなも、腐り切っちゃってたわぁ。』
そう言って笑うしのちゃんは、本当に嬉しそうで。
母さんに出会えた事を、奇跡だと言っていた。
ガキの頃はあんまピンと来なかったけど、成長するにつれ段々分かってきた…ような気がする。
ただでさえ『生きてく』ってだけでも、大変で。
それが例えどんなに、恵まれた環境ってやつだろうと。
不満や苦悩、それ故の悲しみは付き物なんだ。
だからこそ皆、求めてしまうんだ。
自分の苦しみや悲しみを、分かち合ってくれる存在を。
喜びや幸せを、分かち合いたいと思える存在を。
自分の傍に居てくれる人を、自分が傍に居たいと思える人を…。
――スー…、スー…
ベッドの傍らに座り、龍ヶ崎の髪を弄りながら考えるのは。
コイツには三鷹さんやしのちゃんにとっての、母さんみたいな存在が居なかったんだろうなって事。
今までずっと、独り…だったんだろうな。
しかも自分が限界だって事に、気付いてないっぽいっつーか…。
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