第67話

…うん、今更ながらちと反省。


病人相手にでかい声で説教かました自分に。

その上拳骨食らわせた自分に。



だってコイツ、あまりにも頑(カタク)なっていうかさ。


初対面で喧嘩売られて、わけ分かんねぇ事でキレれられて。

それで大人な対応ができるほど、俺もできた人間じゃねぇからさー。





「俺がただお前をほっとけねぇってだけで、お前に恩売って取り入るつもりとかねぇし。


とにかくお前は、早く風邪治す事だけ考えとけばいいんだよ。」




文句があんなら元気になってから言いな。


俺がそう言うと、龍ヶ崎はシン…と黙り込んでしまったのだった。





――さわ、さわさわ…




龍ヶ崎が何も言わないのをいい事に、俺はその髪の感触を堪能中。


いや、オールバックにしてっからワックスでガチガチに固めてるかと思いきや。

意外や意外、その髪質は手触りがよくて気持ちくて。



しかも自分より高い身長の男のつむじが見えるって、なかなかないよね。





「…結局テメェだって、自分の『当たり前』を他人に押し付けてんじゃねぇか。」




さわさわヘアー満喫中の俺に向かって、龍ヶ崎がボソリと一言。


でもそれには最初の時のような、刺々しい感じはなくなってて…。



不意に俺は、こんな大きい体したヤクザみたいな男が。

親に怒られて拗ねちゃった、子供みたいに見えたんだ。





「はは、だな。」




それが何だか可笑しくて、俺は思わず笑みを零しながら頷いた。



まぁ確かに。


テメェの常識なんざ知った事か!っつっといて自分の『当たり前』を押し付けるとか、矛盾してるかもな。



けどコイツ熱があって、誰かの手助けがあるに越した事はなくて。


俺はコイツをほっとけなくて、俺に看病されたって死ぬわけじゃねぇんだからさ。



だから今くらいは、ね。





「今は何も考えないでもう寝な、俺はずっとここにいるからさ。」




そうして俺はこの『大きな子供』が、安心するように語りかけながら。


そっと、横になるよう促したのだった。

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