第66話

自分の生きてる世界に苦しんでて、必死にもがいてる感じが伝わってきた。


見てて、痛々しいほどに。



同情するかって?


ハッ、そんな必要ないね。





「怒鳴り散らして威嚇して、そうやってガキみてぇにテメェの『当たり前』をこっちに押し付けんじゃねぇよ!


お前の方こそ、周りにあるもん全部を拒絶してる自分に酔ってるだけじゃねぇか!」



「っ、会ったばかりのテメェに俺の何が分かるってんだ!!」




ナニガワカル?


ナニガワカル、かって?



そんなの…





「分かんねぇよ。


だって俺、お前の事何も知らないし俺。


でもお前だって俺の事、何も知らねぇじゃん。」




小さなため息一つ。


俺がちょっと落ち着いたトーンの声で言うと、龍ヶ崎はぐっと言葉に詰まったようだった。



俺はソイツに上から目線で言い聞かせるような、呆れた感じでも相手を馬鹿にした感じでもなく。


ただソイツに語りかけるように、静かに言葉を続けたのでした。





「俺もお前も今日が初対面だろ。


俺はお前がどんな奴かも、どんな環境で生きてきたのかも、何にそんな苛立ってんのかも知らねぇけどさ…」




ついさっき会ったばっかりの、他人同士。


それでもコイツが、熱のせいだけじゃなく。

何かいっぱいいっぱいになってんだって事は、分かった。



ただでさえ『生きてく』ってだけでも、大変で。


それが例えどんなに、恵まれた環境ってやつだろうと。

不満や苦悩、それ故の悲しみは付き物なんだ。



自分だけじゃない。


みーんな、『そう』なんだ。



だから――…






「病人を看病するっていうのは、俺にとっちゃ本当に『当たり前』の事なんだよ。


龍ヶ崎がこの先、いくら俺を拒絶してもうざがっても構わねぇからさ。


お前にとってイレギュラーな状態の今くらい、俺の『当たり前』を受け入れても死にはしねぇんじゃねぇの?」




そう言うと、俺は龍ヶ崎に向かってそっと手を伸ばした。



ぽんぽん、と。


拳骨を食らわせた龍ヶ崎の脳天を労るように、その頭をそっと撫でる。

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