第65話

「俺はテメェみてぇに他人の心配をする自分に酔ってやがる偽善者野郎が、一番嫌ぇなんだよ!!!」



「……」




うん、そっか。


よし、さすがにこれには。



俺、怒っちゃったぞ。





「言いたい事はそれだけか?」



「…あぁ!?」




龍ヶ崎と目線を合わせるために、床に座っていた俺。


まぁモッサリとした前髪で、龍ヶ崎は俺がどこ見てんのか分かんなかっただろうけど。



ゆらーり、と。


俺はゆっくりと立ち上がると、そのままフラッとベッドに近付き…









   『ゴンッッ!!!』






「――っ!!?」




龍ヶ崎の脳天に、


拳骨を一発お見舞い。



コレも三鷹さん直伝、めちゃ痛いぜ。

もちろん体で覚えました。


ま、三鷹さんも母さんから身を持って伝授されたらしいけどね。





「…っ、テメェなにしやがる!!」




ナニシヤガル?


ナニシヤガルって…





「それはこっちのセリフだってぇの!」




そう言って俺はフン!っと鼻息一つ。


両手を手を腰に当て、仁王立ちのポーズを取った。



もう怒っちゃったもんね。


プンプンだよ、ぷんぷん。





「ついさっき会ったばっかのお前に、俺の行動を偽善だなんて言われたくないね!


俺にとっちゃ病人が居たら看病するのは『偽善』じゃなくて、『当然』の事なの!」




熱があって、苦しんでて。


助けを必要とする相手が目の前に居たら、それが例え初めて会ったゴツいヤクザ男でも看病するっつーの!



初っぱなから俺に絡みっぱなしで、他人の話聞かないような失礼野郎相手でも心配くらいするっつーの!


逆にそこで見捨てるほど悪人じゃねぇし!



別に、お礼の類いを期待してた訳じゃねぇけど。


わけ分かんねぇ事で怒鳴り散らされる謂(イワ)れも、ねぇっつーの!





「お前が今まで生きてきた環境が、どんなもんかは知らねぇけどな!


世の中の人間皆が皆、お前の言う様な薄っぺらいナルシストばっかだと思うなよ!」




何となく、龍ヶ崎が叫んでた一見脈略のない言葉から察せれたのは。



コイツにとっちゃ


『他人の心配をする=そんな自分に酔ってるだけの人間』


っていう、何とも哀しい方程式が常識になっちまってるみたいだって事。

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