第63話

ノエル side





身体が、熱ぃ…。


ノド、渇いた…。





「……っみず、」




出した声は掠れていて。


思いの外弱々しいそれに、俺は舌打ちを零したい気分だった。





(…風邪なんざ、何年振りだ?)




あの『家』で生き延びる為には、誰も信用しちゃならねぇ。


身内だろうが他人だろうが、自分の弱さを見せたらそこで終わりだ。



それが、あそこから出た途端気ぃ抜けてこの様だ。


チッ、情けねぇ。






『仮にも龍ヶ崎の姓を名乗るなら――』





…うるせぇ。






『あんな外人女のガキがなんで――!』





うるせぇ。






『顔を見ただけで虫酸が走る、【半人前】の汚れた血め!』





うるせぇ…!うるせぇ!


うるせえええ!!






『龍ヶ崎組組長の息子っつても、所詮は妾の子。


ましてや外人の血が混じってるとあっちゃ、お前も色々苦労するだろうなぁ。


――ノ・エ・ルちゃん?』








どこに居たって



何をしたって



何も、変わらない。




だったら、



こんな…こんな世界。





全部、ぜんぶ




ぜ  ん  ぶ












――ヒヤッ…





その時不意に、額に感じたのは。


冷たく心地いい、手の感触。






「おーい、大丈夫かぁ?」




声が、鼓膜を震わす。


それに促されるように、俺は重い瞼を上げた。



チェストの上にあるスタンドが、淡く部屋を照らす中。


俺の顔を覗き込んでいたのは、モッサリとした前髪の…あのオタク野郎。





「なかなか下がんねぇな、熱。ほら、水飲め水。」



「……」




額にあった手が、離れていく。


代わりに差し出されたのは、ストロー付きのペットボトル。




…何なんだ、コイツ。



一体何なんだ、さっきから。








『私すごく心配いたしましたぁ、会長と喧嘩して龍様が怪我されるんじゃないかって~。


本当、龍様がご無事で良かったですぅ。』






ああ、そうか。


コイツも、『同じ』か。



もう、うんざりだ――…。

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