第60話

それを尻目に勉強机の椅子を持ってきて、ベッド脇に座る俺。


パンッ!と両手を合わせて…





「んじゃ、いっただきますっと。」



「…、」




土鍋の他にお盆に乗せて持ってきた、二個のオニギリ。


お粥作るついでに拵えたこれが、今日の俺の晩ご飯でありまっす。



本当はコンビニに食材買い出しに行って、もっとガッツリ食いたかったんだけど。


目の前で、毒味でもするかのように警戒しながら。

少しずつお粥を口に運ぶヤクザ男が、いつ目覚めるとも分からなかったからさ。





「……」



「なぁ、お前さ…」




モグモグと。


家から持ってきた海苔で巻いた、自家製の梅入りオニギリを食いながら男に声をかける。



ヤクザ男は変わらず無言のままだったけど、目を向けて俺に言葉の続きを促した。



まあ、ヤクザ男っていうか…





「お前の名前ってさ、




『龍ヶ崎 ノエル』




で間違えないんだよな?」






――ギロッ





…睨むなよ、名前聞いただけじゃん。










つい一時間ほど前。


リビングでこのヤクザ男が倒れ、そのポケットからこの寮室のカードキーを発見した時。



俺が考えたのは、さっき会った女の子の『ノエルちゃん』がヤクザ男に自分のカードキーを渡して先にこの部屋に寄越したって可能性だった。



それを確かめるべく続いて見付けた携帯から、アドレス帳を拝見するも。


登録数が極端に少ないそこには、どれだけ見てもカノジョである『龍ヶ崎ノエル』の名前は見当たらなくて…





「…まさか、な。」




それを見た俺の頭に二つ目の可能性が浮かぶも、まさかまさかと首を振り一旦それを打ち消した。。



それからヤクザ男を放置するわけにもいかず、仕方なく俺はソイツを自分の部屋へ。


ノエルちゃんの部屋に運ぼうか、迷ったけど。

この時の俺にはまだちょっと、隣の部屋を開ける勇気がなくて。



ずーるずる、ずーるずる。

でかい身体を引きずって、自分のベッドに放り込む。


そうしてキッチンの炊飯器で二人分のお米を炊いて、半分はお粥もう半分はオニギリに。



冷凍庫ん中にあった氷を砕いて冷や水と一緒にビニール袋に入れて、即席の氷枕を作った。

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