第58話

それから、自分の寮室に戻ったとこまでは覚えてる。


そして…?






『あのさー、そんな事されても猿がご機嫌斜めで拗ねて暴れてるようにしか見えねぇんだけど。


みっともねぇったらありゃしねぇ。』





そうだ。



俺はあの、オタク野郎に――…





――ガチャッ…




「お、やっと目ぇ覚めたか。」



「…!」




不意に部屋のドアが開く音と共に、何とものんきな声がその場に入ってきた。


暗かった部屋に明かりが付く。



そうして姿を現したのは、モッサリとした前髪を携えた…あのオタク野郎。





「テメェ、よくも…――っ!?」




起き上がってソイツに掴み掛かろうとした俺を止めたのは、目眩がするほどの頭痛。


そしてそれをも上回る、脇腹の激痛だった。



ズキズキと、頭と脇から酷い痛みが襲い掛かる。





「急に起き上がるなよ。


お前、熱がある上に脇腹にアザできてんだからさ。」



「…っ、」




テメェがやったんだろうがっ!



そう怒鳴ってやりたいのに腹に力が入らず、俺はそのオタクを睨み付けることしかできなかった。


すると俺の言いたい事が伝わったのか、ソイツは小さなため息を一つ。





「お前が先に喧嘩売ってきたんだろ、もう忘れちゃった?」



「……、チッ。」




俺が何も言い返せずに舌打ちを零すも、オタクは特に気にした様子もなく。


ベッドの脇にあるチェストの上に置いた四角い箱の中を、何やらガサゴソと探り出した。



辛うじて上半身を起こした俺が次の瞬間感じたのは、額に何かがピタリと貼られた感覚。





「冷えピタはオッケーっと、あと即席で氷枕作ったからコレ頭の下に敷いて。


もうすぐお粥できっからそれ食ったら解熱剤な、それまでは水分取って大人しく横になってな。」




そう言ってテキパキと、俺にペットボトルに入ったストロー付きの水を手渡すと。


用は済んだとばかりに、部屋を出て行ったオタク野郎。



再び静かになった室内に響いたのは、壁に掛かった時計の秒針の音だけで…





「……」




何だ、これ。



一体何なんだ、あの野郎。

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