第57話

『龍ヶ崎組組長の息子っつても、所詮は妾の子。


ましてや外人の血が混じってるとあっちゃ――』





ああ、頭痛ぇ。



イライラする。











「龍さまぁ、待って下さい~。」




食堂を出た直後。


背後からパタパタと駆け足で。



甘えた声を出しながら俺の腕に抱き付いてきたのは、部屋からずっとくっ付いてきていたあの女。


俺が何の反応も返さないのにも構わず、その女は甘ったるい声で言葉を続け…





「私すごく心配いたしましたぁ、会長と喧嘩して龍様が怪我されるんじゃないかって~。


本当、龍様がご無事で良かったですぅ。」




…心配?



三鷹が声を掛けてきた時に、奴に色目を使い。


ヤバい空気になると一目散に俺から離れて行った、お前が?





「私、これからも龍様の彼女として恥ずかしくないようにお世話をし…」




――ガッ!




女がそれ以上言葉を吐く前に俺はソイツの髪を掴むと、そのまま自分から引き離した。


ヒッ!という悲鳴と共に、俺を見上げる女の顔が見る見る青ざめていくのが分かった。



ソイツを見据えながら殺気を滲ませ、俺は短い言葉を紡ぐ。





「二度と俺に近付くんじゃねぇ、次その面見せやがったら…殺すぞ。」




俺が手を離すと、女は腰から崩れ落ち。


その場で涙を流しながら、放心状態。



俺はソイツを視界から追い出すように、寮一階の廊下を進んだのだった。






こんな世界



全部、ぜんぶ



ぜ ん ぶ




壊れちまえばいい。
















――――……





「……ぁ?」




ふと目を覚ました俺が最初に見たのは、明かりの消えた天井の照明だった。



朦朧とする意識の中、自分が柔らかなベッドの上に寝ている事が分かった。


目だけを動かし辺りを見回すも、どこかの部屋である事は分かったがその場所の見当が付かない。



自室でねぇのだけは確かだ。


気を失う前までの記憶を呼び起こしてみるも、思考が上手く…回らない。



確か、あの後。


コンビニに寄ったはいいが、昼から酒以外口にしてねぇにも関わらず食欲が湧かず。



むしろ出来上がったばかりの弁当の匂いに胃がムカムカし、結局何も買わずに一階を後にした。

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