第56話
「テメェこそ、仕事しねぇでこんな所で油売ってていいのかよ。
『三鷹』の面汚しが。」
「…あ゛?」
いつの間にか、三鷹の登場に湧いていたはずの周囲は静まり返っていた。
誰も彼もが険悪な俺達のやり取りを、固唾を飲んで見守っていた。
静寂が、場を支配する。
一触即発の空気が流れる中、俺と三鷹の睨み合いが続く。
…が、しかし。
その静寂は俺でも三鷹でもない第三者の登場によって、破られる事になった。
「――…こんな所に居たんですか、三鷹会長。」
そう言って現れたのは、
三鷹に次ぐ【鈴蘭】の権力者。
生徒会の、No.2である男。
「あ?何だ、桐原か。」
「桐原か、じゃありません。
全くもう、ちょっと目を離した隙に居なくなるんですから。」
小さな嘆息を吐きながら、三鷹に歩み寄る桐原。
ソイツの登場に、周囲の野次馬からは感嘆のため息が上がる。
…テメェ等の目は節穴か、性悪が二人に増えやがっただけじゃねぇか。
「夕食の準備は生徒会室の方で整えてありますので、もう戻りますよ三鷹会長。
明後日は入学式なんですから、帰って仕事しないと。」
「フッ、テメェの事は棚上げかよ。」
「さて、何の事でしょう?」
にっこりと。
三鷹とはまた違った食えない笑みを浮かべるソイツに、周りからは黄色い悲鳴が。
そのまま桐原は俺へと向き直ると、何とも申し訳なさそうな顔で口を開き…
「ごめんね龍ヶ崎君、会長が無理に引き留めてしまったようで。
久々に君に会えたのが嬉しかっただけで悪気はないんだ、私も会長同様生徒会を代表して君の復学を心より歓迎するよ。」
君の学園生活が健やかなものになる事を願ってる、これからまた…宜しくね。
そう続けた言葉とは裏腹に、俺の動向をジッと見定める目をする腹黒狸。
ここはもう手を引けと、暗にそう言ってやがるのが分かった。
ソイツの言う通りにしてやる義理はねぇが、クソ野郎二人を相手にする気も失せた。
そうして無言でソイツ等に背を向けた俺が再び後ろを振り返る事は、もうなかった。
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