第55話

いつもはピーク時をずらして利用してたが、この頭痛のせいで周囲の様子に気付くのが遅れてしまった。



…んなとこであのクソ野郎にでも鉢合わせしたら、尚の事うざってぇ。


そう思い至った俺は食堂の入り口で立ち止まると、コンビニへと方向転換する為踵(キビス)を返そうとした。



が、その時だった。





「ああ?お前が居るなんて珍しいなぁ、龍ヶ崎ぃ。」




俺が振り返ろうとした矢先。


背後から、一足早く。



他人の神経をわざと逆撫でするような、嫌みたっらしい声が掛かったのは。


…チッ、遅かったか。





「……」




その声に一瞬動作を止めた俺だったが、すぐにゆっくりと身体を返した。。


振り向いた先に居たのは、両脇やその背後に何人もの女を侍(ハベ)らせた…一人の男。






「寂しかったぜぇ、龍ヶ崎ぃ。


お前が居ねぇこの半年、暇で暇で仕方なかったぜぇ。」





鈴蘭学園生徒会会長、





三鷹 隆義(ミタカ タカヨシ)。





この学園の、最高権力者。


ソイツの登場に、周囲のあちこちから歓喜の悲鳴が上がる。



…ああ、頭痛が一層酷くなってきやがった。





(…コイツの相手なんか、するだけ無駄だ。)




そう考えた俺は無言のまま、三鷹の方に向かって歩き始める。


食堂の出入り口は他にもあったが、わざわざソイツを避けて違う場所から出ようとは思わなかった。



そのまま三鷹に一瞥(イチベツ)もくれる事なく、ソイツの横を通り過ぎる。


そうして俺が食堂から立ち去ろうとした…その寸前。





「何でも聞くところによりゃあ『家』に呼び戻されて以来、大変だったそうじゃねぇか。」




ピタリ、と。


俺の足が止まった。



再び、背後の男を振り返る。


すでにソイツは俺の方に身体を向けていて、ニヤリとした食えない笑みを浮かべていた。





「龍ヶ崎組組長の息子っつても、所詮(ショセン)は妾の子。


ましてや外人の血が混じってるとあっちゃ、お前も色々苦労するだろうなぁ。


優しい俺が慰めてやろうかぁ、ノ・エ・ル・ちゃん?」




いつもの俺なら。


このクソ野郎のこんな安い挑発になんざ、乗らなかった。



が、ズキズキとした頭痛が俺の思考回路を阻害する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る