side Noel

第54話

イライラする。




家の奴等にも



この学園の連中にも、



…自分自身にも。




こんな世界



全部、壊れちまえばいい。












その日は起きた時から最悪だった。



昼過ぎに目が覚めた俺を襲ったのは、チクチクと刺すような小さな頭痛。


寝込むほどのもんじゃなかったが逆にそれがうざったく、酒を片手に一人イライラと苛立っていた。



部屋から出るのも面倒臭く、誘ってきた女の中から一人適当に呼び出したが。


事後にベタベタと甘ったるい声で垂れかかるその女に、胸の中の苛立ちは増していった。



極め付けは…





「俺、今日からここに入る事になった黒崎 誠っていうんだ。


外部生だからこれから何かと世話になるかもしんねぇけど、仲良くしてくれっと嬉しいな。


宜しく…えっと、ノエルちゃん。」




ノエル、『ちゃん』だと?


ふざけてんのかこのオタク野郎。



普段の俺ならソイツをボコボコにして、二度と舐めた口利けねぇ様にしてやった。


だが目覚めた時より頭の痛みは酷くなってやがるし、ソイツのモッサリとした前髪を視界に入れるのもうざったく。



俺はそのオタク野郎を突き飛ばすと、足早に部屋を後にしたのだった。





「待って下さい龍さまぁ。」




追い掛けて来たのは、さっきまでベッドで一緒だった女。


それに振り返る事なく、俺は寮に併設する食堂へと向かった。



食堂へと近付くにつれ増えていく視線。


俺に媚びるような目を向ける女共に、俺の姿に怯えた表情を見せる男共。





「見て、龍様よ。」


「入学早々龍様のお姿を見れるなんてラッキーですわぁ。」



「げっ龍ヶ崎だ、目合わすな殺されるぞ。」


「アイツついこの間、絡んできた三年の柔道部員全員を病院送りにしたらしいぜ。全治一ヶ月だとよ。」




道すがら、ヒソヒソこそこそと交わされる会話。


部屋から付いてきた女は俺が何も言わねぇのをいい事に、周りに見せ付けるように腕を絡ませ身体を密着させてくる。



ほとんどの寮生が『上層部』目当てに食堂に集まり、混雑するこの時間帯。


自ずと、俺に向けられる視線の数も多くなる。

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