第43話

「でもおかしいですねぇ。」



「あ?」



「いえ、さっきまで反対の『月城』の寮長室で待たせてもらってたんですけど…。」




顎(アゴ)に手を当て、何やら思案する様子の桐原。


一方の俺は、ソイツが『月城』と言った事に疑問を覚えた。



何だって月城の寮長室なんかに。


だって、そっちは…





「こちらの太陽寮に来たという事は、その外部生は


『男性』


という事ですよね?」



「ああ?当たり前だろ、何言ってやがる。」




とぼけた桐原の問いに、呆れのため息を吐きながら答えを返す。





鈴蘭学園三年、半田 雅貴。



太陽寮寮長もとい、


鈴蘭『男子学生』専用寮寮長。



それが俺の、肩書きだ。



その俺のとこにアイツの入寮証明書が回ってきたんだ、男じゃなかったら何だって言うんだ。





「妙ですね。


生徒会の方に送られてきた外部生の資料にはハッキリと、『女性』と記載されてたんですが…。」




はあ?女ぁ?


クロが、か?



どういう訳か顔写真が紛失していたので他に判断材料がない状態なんですけどね、と。


そう言葉を続けた桐原に対し、俺はついさっきまでいた噂の外部生の容姿を思い浮かべてみる。




170以上の身長。


地獄の上り坂を徒歩で制覇した体力。



パーカーにジーンズというラフな格好。


真っ黒なショートの髪。



前髪がモッサリで、顔の造形はよく分からなかったが。


何より自分の事を『俺』と、そうハッキリ言っていた…。





「…男以外の何者でもなかったぞ、単なる記載ミスじゃねぇのか?」



「…ですかねぇ。」








こうして誤解は解かれぬまま、


真実は闇の中へ。









そして、そんな事になってるとは露知らず…





「ぶぇっっくしょんっ!」




(…うーん、本日二度目のくしゃみ。風邪でも引いたかな?)






…のんきな者が、約一名。

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