第41話

そこに居たのはこの学園の、実質上No.2の地位に居る男。





「…桐原、」



「俺が入って来たのに気付かないくらい、楽しい事でもあったんですか?」




そう言いながら寮長室に足を踏み入れ、勝手にソファーに座るその男。


たったそれだけの動作からも、コイツの育ちの良さが窺(ウカガ)える。



鈴蘭<ココ>に通う連中はそれなりに礼儀作法を躾られた人間が多いが、コイツはまた別格だ。


何せあの、『桐原』だからな。





「まあな。」



「…いつも不機嫌そうな貴方がそんなにご機嫌だなんて、珍しい事もあるものですね。


明日は槍でも降るんでしょうか。」




俺が素直に認めたのが意外だったのか、目をパチパチと瞬かせたソイツ。



どっかの国の王子様みたいな面してるくせに、平気で嫌みを吐きやがるお前に言われたかねぇよ。


その腹黒いトコ、学園の奴らが見たら卒倒もんだぜ。全く。





「で、お前は何しに来たんだよ。


入学式は明後日だろ、生徒会の仕事はどうした。」



「心配して頂かなくてもしてますよ、ちゃんと。


今日もこれからまた学校にトンボ返りしないといけないので、その前にお茶でも飲たいと思って。」




ふうっと疲労の色を滲ませながら微笑む桐原に、俺の口角がヒクリと震えた。


言外に『茶ぐらい出せ』というソイツの台詞に、俺の額にはくっきりと青筋が浮かぶ。



ここはテメェの立ち寄り喫茶じゃねぇんだよ、用もねぇのに気軽に寄るんじゃねぇ。


とっとと出てかねぇとそのケツ蹴り飛ばすぞ、この腹黒野郎。





「冗談ですよ、今日入寮する予定の『噂の外部生』とやらを見に来たんです。


【鈴蘭】が認めた唯一の外部生というのに興味があったんですが、…少し遅かったみたいですね。」




その台詞の内容に、ピクリと俺の耳が反応する。


桐原が目を向けたのは、テーブルの上にあった二客の湯呑み。



噂の外部生、黒崎 誠はコイツが来る少し前に出てったばかりだった。


…危ねぇ、入れ違いじゃねぇか。

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