第23話
そんな時、『誠』の言葉の意味を教えてくれたのが清十郎先生だ。
『【誠】とは真心・仁義・道徳、人によって捉え方は様々だが、それは人が人として生きる道。
軽んじる者は多く他人に正しく評価される事は少ない、だがそんな事は問題ではないのだ誠。』
『…?どうしてですか?』
『大事なのは他人の評価ではなく、己がどうあるべきか。
どう道を歩むべきか、それだけなのだ。
――…誠、その名に恥じぬよう強く真心を持って己の道を進みなさい。』
当時の俺は、やっぱりまだまだ子供で。
師匠が伝えたかった意味の、半分も理解できてなかったと思う。
それでも俺は自分の名前にはすごい意味があって、それはとても誇らしいモノなんだって事がはっきりと分かった。
俺は誠という自分の名前や、それを付けてくれた母さん。
そしてその意味を教えてくれた師匠の事が、前にも増して大好きになった。
立花道場の門前。
道場の庭先に埋められた桜の木がピンクの花を咲かせ、サワサワとその枝を揺らしていた。
俺はこのまま鈴蘭学園に直行するから、師匠とはここでお別れ。
さっきまで練習していた門下生の子供たちも、俺の為に見送りに出てきてくれていた。
「マコト姉、お手紙ちょうだいね。絶対だよ。」
「次帰って来た時にはぜってぇ負けねぇからな誠!勝ち逃げすんなよ!」
「また空手教えてね、マコちゃん。」
思わず口元が綻(ホコロ)ぶ。
だってちょう可愛いんだぜ、みんな。
「おう。
しばらく留守にするけど師匠の言う事しっかり聞いて、みんな強くなるんだぞ。」
「「「「うんっ!」」」」
ほらな。
「誠。」
不意に名前を呼ばれ顔を向ければ、ジッと俺を見つめる師匠の淀みない瞳が合った。
それだけで俺の胸にあった不安や緊張が、和らいだような気がした。
俺を真っ直ぐ見つめたまま、師匠がそっと言葉を紡ぐ。
「辛くなった時には思い出せ、お前の傍らには常に母が居る事を。
…この老いぼれも、心はいつもお前と共にある。」
「っはい!」
いってきます、師匠。
そうして俺は師匠と門下生の子供達に手を振り、住み慣れた地元の町を後にしたのだった。
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