師匠

第22話

俺が入学する事になった鈴蘭学園は、全寮制で。


俺と母さんが住んでた町から、車で二時間ほど離れたとこにある大きな山の天辺にあるらしい。



知らない地名、初めての場所。


不安もあるし、緊張もしてる。



今度俺が地元に帰って来るのは、多分夏休み。


だからしばらくは、母さんとの思い出が詰まったこの町ともお別れ。



寂しいけど、俺頑張るって決めたから…。














出発の日。


アパートを引き払った俺はその足で、とある道場に来ていた。



そこは町に一つだけある空手道場で、今日は日曜日。


道場からは、門下生である子供たちの元気なかけ声が聞こえてくる。



その道場の隣にある、昔ながらの瓦葺きの家。




立花道場、師範




立花 清十郎先生


(タチバナ セイジュウロウ)




俺の、師匠の家だ。





「…行くか。」



「はい。」




畳の居間で、俺と清十郎先生は向かい合って座っていた。


師匠は今年喜寿を迎える歳なのに、全然そんな風に見えない。



俺より小柄だけど、背筋を伸ばして厳かに座るその姿は迫力があって。


まるで真冬に凛と佇む、一本杉を見てるようだ。





「挨拶がギリギリになってすみません。」



「構わん、向こうに行っても己の信念を曲げないよう。


日々鍛錬を怠らず、真っ直ぐ『誠』の道を進みなさい。」



「はい。」




俺は師匠から、空手を初め武道全般を教わった他に。


俺の名前、『誠』についても教わった。



つーのも小さい頃、俺は近所の悪ガキに『男女のマコトは名前も男みたい』と悪口を言われて虐められた事があったんだ。



まぁソイツの言う通り、俺はガキの頃から今と同じ男っぽい性格してたから。


そんな男勝りな俺は、当然その悪ガキを返り討ちにしたんだけど。



でもやっぱり当時の俺はまだ小さくて、同世代のヤツに言われた事に少なからず傷付いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る