第13話

「今年から導入っつっても一般公募はかけちゃいねぇ、何せ学園初の試みだ。


一般家庭の出の人間が上流階級の坊っちゃん嬢ちゃんが集まるあの学園で本当にやっていけんのか、分からねぇからな。


そんな奨学生制度の被験者を、最初の奨学生を探す役回りを任されたのが篠原だ。」




窓の外を夜景が流れていく中、三鷹さんの話を一生懸命整理していく俺。



えっと、初めての制度を導入して失敗するのが心配だから。


まずはお試しで誰か一人奨学生を取ってみようって事、でいいのかな。



その第一号を選ぶのが、新しく理事長になったしのちゃんの役目で…





「無論奨学生には学園側が求める高いレベルの学力が必要不可欠で試験もある、かなりの難関になるだろうな。


受かるか受からねぇかは、篠原の推薦するヤツの実力次第だ。


ちなみに篠原の奴は今年、たった一人の被験者しか推薦するつもりはねぇそうだ。」



「…!」




そう言ってニヤリと野性的な笑みを浮かべた三鷹さんに、俺はパチパチと目を瞬かせた。


そして次の瞬間俺の胸いっぱいに広がったのは、嬉しくて申し訳ない気持ちで。



三鷹さんとしのちゃんが単純に、俺に学費の援助してくれるっつー話じゃないって分かったから。


二人が俺にくれようとしてるのが、そのたった一人の被験者としてのチャレンジ権だって事が。





「お前をいつまでも独りになんてしておけねぇ、これが俺等にできる最大限の譲歩だ。


決めろ、マコ。」



「……」




甘やかされてんなぁと、つくづく思った。

三鷹さんにはお見通しだったんだな、俺が自分の力で高校に合格したいって思ってる事が。


受験を頑張りたいっつー俺の我が儘を尊重した上で提示してくれた、二人の妥協案。



奨学生の枠を勝ち取れるかは被験者の、つまり俺の実力次第。


たった一人の受験者の俺が合格しなきゃ、俺を推薦してくれたしのちゃんの顔に泥を塗る事になる。





分かってるっつーの。


そこまでお膳立てしてもらっといて拒否るとか、二人に申し訳が立たねぇし。



それに、ここで立ち上がらなきゃ母さんのくれた『誠』の名が廃(スタ)るっつーの。





「分かった、三鷹さん。


俺、鈴蘭学園の奨学生試験受けるよ。」




二人には将来いっぱい恩返しする。


その為にはまず、何がなんでもその奨学生試験ってのに合格してやるさ。



黒崎 誠、十五歳。


死に物狂いでやってやる。


待ってろよ、鈴蘭学園。

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