第8話

――――……





――カチャ…




「どうぞ、誠君の好きなアッサムティーだよ。」



「あ、ありがとうございますっ。」




『BAR Noah』は今日はお休みです。


散々泣いて目を真っ赤にしちゃった俺の為に、三鷹さんが貸し切りにしてくれました。



三鷹さんと木元さんは昔からの顔馴染み。

だから多少の無茶もきくんだよね。


この歳であんな大号泣とか恥ずかしすぎるけど。

大人な二人は俺の羞恥心に気付かないふりをしてくれました。

両目が悲惨な状態の俺はそんな二人の好意に甘える事にしました。



紅茶のいい香りが鼻を擽(クスグ)る中、カウンターに座った俺はそれをコクリと一口。

隣に座る三鷹さんの前にはエスプレッソが。


俺、木元さんの入れてくれる紅茶好きなんだよね。

うん、おいし。





「そういやマコ、お前高校どうすんだ。」



「行くつもりだよ、まだどこにするかは決めてないけど。」




そもそも行けるかどうか分かんねぇけど。

学費の問題もそうだけど勉強頑張んなきゃ。


ギリギリまで奨学制度あるとこ探すつもりだけど。

ひとまず公立の入試にはパスしときたい。



そんな事を思いながらコクリコクリと紅茶で水分補給をしてた俺は、三鷹さんがジッとこちらを見つめている事に気がついた。


なーに、三鷹さん。





「学費の事なら心配すんなよ、俺が全額出すからな。


どこでもお前の好きなとこに行けやいい。」



「……」




言うと思った。





「それはだーめ。」



「…何でだ。」




ちょっ、そんなに睨まないでよ三鷹さん。

目鼻立ちのハッキリしたワイルドフェイスも、野性味が増しすぎると怖いよ。


恐怖でちびっこが泣き出す顔面だよ。

ヤーさんも裸足で逃げ出す形相だよ。





「テメェはまだ子供だ、余計な遠慮なんかすんじゃねぇ。


今は素直にオトナに甘えとけ。」



「僕もそう思うよ、誠君。


それに義嗣は、お金持ちってだけが取り柄みたいなもんなんだから。


変な会社を作るより誠君が使ってあげた方が、義嗣のお金も喜ぶよ。」




…木元さん、言葉にちょぃトゲがあります。

ほんわか笑顔で言うもんだから、尚の事鋭く感じます。

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