第7話

「三鷹さん、いつこっちに戻って来たの?」



「ついさっきだ。


…ここに来る前に、直子の墓に寄って来た。」




三鷹さんがそっと零した一言に、俺は身体を強張らせた。


けどそれも一瞬で、肩からゆっくりと力が抜けていく。



『直子』は、俺の母さんの名前。


いつも真っ直ぐだった母さんに、ぴったりの名前。





「…そっか。」



「悪かったな、すぐ来れなくて。」



「ううん、三鷹さん忙しいから仕方ないよ。社長さんだもんね。」




三鷹さんは大きな企業の代表取締役をしてる。


詳しい事はよく知らないけど海外に本社があって、ここ数年は日本を離れて世界中を飛び回る日々が続いていた。



すっごく忙しい人なのに、いつも俺達親子の事を気に掛けてくれるとても…優しい人。





「信じらんねぇな、あいつが逝っちまっただなんて。」



「…そうだね。


俺も母さんが、その内ひょこり帰ってくるんじゃないかって思っ…――っ!」




三鷹さんが呟いたその一言に、喉の奥が急激に熱くなって。


言葉が詰まって、俺はそれ以上喋る事ができなくなってしまった。



ああ、どうしよう。


あんなに、葬式で泣いたじゃないか。

ちゃんと、母さんにお別れ言ったじゃないか。



俺は込み上げてくる感情を必死に抑えようと、歯を食いしばって我慢した。



だけど…






『――…マコ。』




「――…マコ。」





母さんと三鷹さんの声が、


重なって聞こえたんだ。






『あたしは、いつもアンタの側にいるよ。


例え何があっても、ココロはいつもマコを想ってっかんね。』




「我慢すんなマコ、お前は一人じゃねぇ。


俺が傍に居る、アイツもお前の中で…ちゃんと生きてる。


マコ、お前は独りじゃねぇ。」





ああ、もう。


いつもそうだ。



二人には、適わないなぁ。






「…っうわああぁん!!」





母さん、俺もね。


どんなに離れてても。



いつも母さんの事、


想ってるよ。

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