三鷹さん

第6話

振り返るよりも先に、


俺の耳に響いたのは。



物心付いた頃から聞き馴染んだ、


ハスキーな声。





「ようマコ坊、久しぶりだな。」



「っ…!」




そう言って店に入って来たのは、艶やかな黒髪を緩くオールバックにした長身の人物。



かけられたその声に、入り口に佇むその姿に、俺は目を見開いた。


それは、俺がとてもよく知っている男の人だったから。



年の頃、三十代前半。


凛々しい眉に整った顔立ち。



見るからに高級なスーツに身を包み、ワイルドな笑みを浮かべ『BAR Noah』にやって来たその人物。





名前は




三鷹 義嗣(ミタカ ヨシツグ)、




母さんの同級生で無二の親友。



小さい頃から俺の事をよく構ってくれてた、俺の…父さんみたいな人だった。





「三鷹さんっ!」



「っ、おいおい。


熱烈な歓迎は嬉しいが、無闇に他人に抱き付くなっていつも言ってんだろ。」




三鷹さんの姿に目を輝かせた俺は笑顔で走り寄り、その胸に飛び込んだ。


そのままギューッと抱き付く俺に苦笑を浮かべながらも、しっかりと抱きとめてくれる三鷹さんにますます笑顔になる。



三鷹さんっ、三鷹さんっ。


本物だ、本当に三鷹さんだっ。



こうして会うのいつ以来だろう。


電話ではちょくちょく話してたけど、直に会うのは久しぶりで嬉しさが込み上げてくる。





「三鷹さんは他人じゃないもーん。」



「ったく。」




やれやれといった感じで息を吐きながらも、その顔は俺同様ちょう笑顔。


俺の身長は170ちょいだけど、三鷹さんは185以上の長身で抱き付くと俺の身体(カラダ)はすっぽり三鷹さんの腕の中。



三鷹さんに抱き締められると昔から安心するんだよね俺。


やっぱ父性感じんのかなー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る