第73話

「……そっか、、良かったぁ」




凛くんは心から安堵したように笑うと、私の身体をギュッと抱き締めてくれる





「柚希を─…また傷つけられたのかと思って焦った。違うなら良かった…本当に、良かった」





元カレかも…って、思ってたんだろうな。女心は分からないくせに、そういうところはいつも当ててくるから…嫌になる。





『そんなことより、凛くんがメガネを辞めたことの方が─…悲しいよ』





本音を言えば、そっちの方がずっと悲しい。不安で胸が押しつぶされそうだ





「……ごめんね?柚ちゃん、あのメガネ俺より気に入ってくれてたもんね…俺も同じようなメガネ探したんだけど、何処にも置いてなくて。やっぱり流行ってるのかな?柚ちゃんがいいねって言ってくれるメガネだもんなぁ…流行の最先端だよね、きっと」





───その、逆だよ。




あんなメガネ、今のこの令和の時代にわざわざ購入しようとする人なんて居ないから置いてないんだよ。あるとしたらそうだなぁ…老舗の老人が営んでいるような、高齢の方向けのメガネ屋さん…みたいな。そんなところじゃない?






今日も私に騙されて、私の言うことを信じて疑わない彼に…欲張りでワガママな私は嘘に嘘を重ね続ける。






『……今度私が見つけて買ってきてあげる。凛くんとキスはしたいけど、別にメガネをしててもデキるでしょ?』





それにね?メガネを外して恥ずかしそうにしながら、キスをしてくれる不器用な凛くんの仕草が…私は大好きだったんだ。





「そーだね、でも─…邪魔なレンズもフレームも無いからかな?いつもより柚ちゃんの顔がよく見える」





よく見える…っと言って私の顔を覗きこんだ凛くん。本当に、カッコイイから嫌になる。






「……何でまだ、寂しそうな顔してるの?」





ほらね、いつだって凛くんは私の変化に気付いてくれる。髪型を変えたり、メイクやネイルを変えたらすぐに気付いて感想をくれる。





───釣り合わないよ、ほんと。





私に凛くんは、勿体ない。

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