第2話  続いてしまった!

 翌日、いつも通り姉の大きな胸に顔を挟まれ息苦しい目覚めを迎え、抱きついてくる妹の相手をして、朝食を食べ、沙織と並んで登校する修也だった。


 だが、その日の紅子の朝の挨拶はいつもと違った。


「修也、今日、一緒に帰るぞ。約束だからな」

「うん、わかってるよ」



 昼休み、修也はあえて孤独な時間を過ごす。いつも誰か、女の娘(こ)と一緒だから、修也は息抜きのために昼は図書室で過ごす。


 図書室には、図書委員の麻子(あさこ)がいた。修也と同じ2年生、読書好きなメガネっ娘だった。中肉中背、地味で目立たないが整った顔立ちをしていることを修也は知っていた。


「あの……修也君」

「ん? 何?」

「私がオススメした本、おもしろかったですか?」

「うん、おもろかったで、はい、返却するわ」

「あ、じゃあ、またオススメしてもいいですか?」

「うん、麻子さんのオススメにハズレはないから」

「この本ですけど」

「あ、ほな、借りるわ」

「はい!」


 麻子に話しかけられることもあるが、それでも昼の図書室は静かで、修也のお気に入りの場所だった。



「あ! ここにいた」


 その日の図書室に乱入した女性がいた。弓道部の部長、3年生の巴(ともえ)だった。巴は171センチの長身、学校のアイドルの1人だ。修也は弓道部だが、生徒会の副会長になってから休部している。


「部長!」

「修也君、ちょっと聞きたいんやけど」

「なんでしょう?」

「生徒会の仕事は前期で終わりやろ? ほな、次の弓道部の部長になってくれへんかな?」

「いやー! 野球部とサッカー部と陸上部からスカウトされていますので。今も試合だけ出ています。だから、結構忙しいんですよね」

「忙しいとは思うけど、部長になってほしいねん。考えておいてや」

「はあ……」



 放課後。


「修也、一緒に帰ろうか」

「ごめん、沙織、今日は用事があるねん」

「そうなんや、ほな、また明日」


 紅子とは校門で待ち合わせ。


「遅いぞ! 修也」

「ごめん、紅子」

「って、この時間から行けるところって限られてるな。ゲーセン行こう!」

「どこでもええよ」

「お前なぁ、この私とデートできるんやから、もっと喜べや」

「言い方がキツイなぁ、本当は優しいくせに」



 1年前、修也が紅子と親しくなるきっかけがあった。放課後、雨の降る公園で、段ボールに入れられた捨て猫を紅子が助ける場面を見たのだ。紅子は傘を持たず、雨に濡れていた。


「その猫、どうするの?」

「なんや、お前は?」

「僕は相沢修也、君と同じ1年生やけど、僕のこと知ってる? 僕は君のこと知ってるで。暴走族のレディースに入ってるんやろ?」

「悪いか? 私の勝手やろ? この猫は私が飼う」

「へえ、優しいんやね」

「優しくないわ、ちょうど猫を飼おうと思ってたところなんや」

「ふーん。あ、君、傘は無いんか?」

「無い」

「ほな、この傘を使ってや。僕はええから」


 修也は紅子に傘を持たせて走り去った。


 それから、紅子は修也と話すようになった。というか、修也を誘うようになったのだ。あれから、もう1年になるのか。



「修也、あの人形とってや」


 クレーンゲームで、紅子からのリクエスト。修也は大体300円くらいで狙いのぬいぐるみをゲット出来る。紅子が欲しがるものを一通りゲットし終えたら、店員から大きな袋をもらって今日の戦果をひとまとめにした。紅子は上機嫌だ。


「もうええよ、修也、コーヒー飲もう!」



 カフェで休憩。紅子の話を聞く。紅子は自分からよく喋ってくれるから楽だった。自分のことを理解してほしいのかもしれない。そんな紅子が言った。


「聞いてもええかな?」

「何?」

「修也は誰が好きなんや?」

「え? そう聞かれると難しいな」

「修也のことが好きな女子は多い。その中で、修也は誰のことが好きなんか? 気になるんや。もう、心に決めた人がいるんか?」

「いや、いない」

「そうか、じゃあ、私にもまだチャンスはあるな」



 “夕食は家で食べる”と修也が言ったので、紅子とはカフェを出た所で別れた。正確には、駅で別れた。



「ただいまー!」


 修也が帰宅すると、澪、操、翔子が何やら話し込んでいた。


「お帰り-!」

「どないしたん? 女性ばかりで。これが女子トークってやつ?」

「誰が修也の初めての相手になるか? 話し合っていたのよ」

「えー! 何それ?」

「やっぱり私よね? 修也には私がいいと思う」

「お姉ちゃん、何を言うてるねん?」

「違うわよね? やっぱり母性に溢れた私がいいわよね? 初めては特に」

「お母さんまで」



 修也は母親の翔子とも血の繋がりは無い。修也の父親と翔子は再婚同士で、父の連れ子が修也、翔子の連れ子が澪と操だった。ちなみに、翔子は37歳。17歳の時に澪を産んでいる。かといって不良だったわけではない。お嬢様だ。出産後、翔子は高校を卒業、短大にも行った。翔子の夫(修也の父)とは離婚している。ということで、翔子は修也の初体験の相手になりえるのか? いやいや、それはなかなか難しいだろう。いくら男性が母性を求めると言っても……。


 では澪か? うーん、1番現実的な気がするのは何故だろう? 一応、姉なのに。っていうか、何故、そのトークに操が混ざっているのだろう?


「私もお兄ちゃんの初めての女性になりたい!」

「操はまだ中学生やろ!」

「え! 中学で初体験をすませてる娘(こ)、いっぱいいるで」

「……僕、今日は寝るわ」

「アカンよ、ちゃんと晩ご飯を食べなさい!」

「修也、大丈夫、まだ先の話やから」

「いつ頃の話なん?」

「やっぱり修也が18歳になってからでしょう!」



 修也は聞くだけで頭痛がした。







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