この世界について

 この物語を語る上で先ず、私が生きた世界について紹介して起きたい。読者諸君が生きる世界においては全く同じ様な、又は似たような事柄や事象あるかもしれないが、あくまで私が生きた世界でのことである事をご理解いただきたい


 先ず私を含めてこの世界で文明を持つほどに進化したのは二足で歩き言葉を話すほどにまで進化した動物―獣人(ケモノビト)―たちだ。私達とその他の動物が何故ここまで違う進化をしたのかはこの世界でも答えは出ていない。が、この話はここでは関係ない事だ


 前項で、「この世界は排煙の海原に覆われたと」書いたが、この世界は大地や海を忘れて久しい。かつては広大な海原に幾つもの大陸や島国が浮かぶ世界だったと聞いているが、そんなは、この世界の人々にとっては御伽噺や神話・伝承に近しい話だ。


 なぜこんなことになったかと言えば、これも前項で話したが蒸気機関技術による汚染である。読者諸君の世界のエネルギー源は我々の世界では進化しなかった電気とかなのだろうが、我々の世界では蒸気機関をエネルギー源とする動力によってあらゆる機械や技術を動かしている。

 

 勿論、最初からこの世界がそうだった訳ではない、仮に我々の世界で蒸気機関が発達しなければ、それに変わるエネルギーが発達した可能性だってはずである。しかし、我々の世界は違った。その歴史の分岐点は、イギリス連合王国のロンドンにおいて蒸気王の異名を持つチャールズ・バベッジ卿が「階差機関」と「解析機関」を作り上げた事に他ならない、これは蒸気機関を動力とする機械式自動計算機―であり、この発明を持ってこの世界ではコンピューター革命がおこり、蒸気機関は動力源としての地位を確固たるものとしたのであった。


 バベッジ卿の蒸気コンピューターはこの世界に多大な影響をもたらし、「デウスマキナ」ともてはやされたが、自然界にとっては「悪魔の発明」であった。排煙は空を覆い空気は汚染され日光遮られた。都市は灰と煤は降り積もり病をもたらし、工業廃水によって水や大地は汚染され。陸地は生き物が住むことのできない土地となったのだ。


 ここに、地上における文明と歴史は終わった。人々は排煙の上に住処を求めた。長い時を駆け、巨大な蒸気機関を備えた動力炉を有する塔をいくつも作りその上に土台を築きそこに、かつて都を移した。文明は泊まり永遠の蒸気機関文化が続く煙上蒸気機関都市ロンディウムがここに誕生した。そして、気付けば世界は排煙の海原に覆われかつてあった大地は失われていたのだ。


 最後に出てきた、煙上都市ロンディウム。この都市がこの世界の一番の都市となる。動力塔は円を描くように9つあり、神話上に語れる世界樹にあやかり「ユグドラシル」と呼ばれ、いつしか第一塔から時計回りにその世界樹に存在した9つの世界に沿って愛称がつけられていた。また、その上に築かれた土台はかつてこの国に存在した伝説の島にあやかり「アヴァロン」と呼ばれている。そんな土台の上に移されたロンディウムは、複数の階層から成る天に向かって伸びる都市である。


 この都市についても、色んな面から触れてみようと思う。それは、技術や食べ物と言った文化面からであるが、人々の生活的な面にも、だ。それはこの都市の社会的にネガティブな面もあるが、誰かの犠牲の上に何かが成り立つと言うのは自然界でも、文明社会でも共通の理であろう。


 この都市が階層からなる都市だというのは触れたが、それはそのままこのこの都市の階級を表している。上層ほど豊かで下層に行けばいくほど貧しい。蒸気機関技術によって生み出された機械が都市中に満ち、航空機はもちろん、蒸気自動車や、空中列車が都市中を駆け巡り、一度は止まった蒸気文明はこの空の都で黄金期を迎えているのだ。が、その輝かしい恩恵を受けられるのは中層以上の人々で、下層には未だ馬車が行きかっている等その差は激しいものがある。


 また、食文化は驚くほど豊かだ。人々が空に移り住む際、植物の種や苗木、動物、水産物が持ち込まれ、新たな土地での栽培や飼育、養殖に成功しており、地上の食文化を今に残している。機関革命によって温室や人工降雨機も生まれ、年中を通じて豊かな食文化がもたらされている。


 そんな、この世界には欠かせない蒸気機関。この世界における燃料は、石炭ではない。技術進歩の中で、新たな燃料が生まれた。それが熱氷晶―エイトリオンーまたの名を「燃える霜」だ。これは水を与えるだけで燃え盛り膨大な熱を生み出す新物質で、空中都市遷都時にそのままロンディウム大学と名を変えたかつてのオックスフォードの知識人たちが生み出した。


 見た目は名前の通り霜や氷の水晶の様な形状をしている。さらに自ら冷気を発射触ると冷たいが、触るとそのまま触ると火傷を起こす性質がある。また、名前の由来は「ユグドラシル」と同じ神話の由来で、世界の創世において世界が熱と霜しかなかったころ、その熱が霜を溶かしたことで滴り落ち、最初の生命を生み出した液体である「EITR」に由来する。



 では、実際ロンディウムに住む人々の暮らしがどのようなものかと言うと、先述のとおり、その差は階層ではっきりと分かれている。


 上層に住むのは、暮らすのは空中都市となっても続く王侯貴族の子孫の人々で、都市の運営に関わる機関なども集約されている。彼らは、かつての土地をそのまま今の都市に重ね土地代を徴収して依然として贅沢に暮らしている。


 中層に住む人々は、蒸気技術を牽引する資本家や裕福な労働者が暮らす。彼らは蒸気機関黄金時代の恩恵を一番受けた人々だ。工場や農場などもこの層に集約されおり、町は活気と明かりに満ちている。


 そして、下層。ここの暮らすのは貧しい市民や労働者達で、中層以上の19世紀ロンドンの華やかな街並みをしてる一方。ここは、同じ間取りや外観の家が連なるスラム街であり、陰鬱としていて衛生的にも治安も悪い。安く雇われた労働者達は、その日暮らしをしている。


 そんなロンディウムの政治は、上層階級の人達による部会と、中層階級の人達の代表によって選ばれた部会、そしてこれから詳しく語る機士団員の代表からなる3部会制で、日々都市の運営について議論や法案の可決などがされている。人々の心の拠り所となる宗教では、かつての信仰はなくなり、遷都後の地上文明崩壊後から「未来の王」の救済を崇拝する一神教が崇拝されている


 ロンディウムの様子は以上だ。最後に、階層を超えて注目される組織、蒸機士たちについて触れよう。


 蒸機士こと「プリトウェン」は、かつて海路貿易で巨万の富を気づいた貿易会社を前身とし議会の可決で都市の公的機関に吸収されて設立された飛空艇をかる専門職者から派生した集団である。前進がもつ巨万の富を元手に新元素エイトルニウムを原動力とする飛空艇を作り組織された彼らは当初こそ、階層関の人や物の行き来などをになっていたが、いつしか、かつて失った大地や新たな資源を求めてロンディウム大学の学者や知識人、機関工の技術者達と結託して新たな飛空艇を生み出し煙海の底を目指していった。


 そうして生まれた潜煙艇を駆る者たちを従来の者たちと区別するため、「蒸機士」と呼んだことに由来する。蒸機士は当初こそ12,3人の選ばれた精鋭部隊だった。彼らは、煙海航海の果てに長く交流が途絶えていたが、煙上都市として生き延びたかつての都市を発見。この発見は、都市中を驚かせ、直ぐに空路が整備させ都市間の物と人の物流が始まった。これを機に「蒸機士」は時代の人となった。


 初めての蒸機士達は「ナイツオブラウンド」と呼ばれ今では伝説となり、だれもが憧れる職業となった。その後飛空艇乗りと、蒸機士達は志願者が後を絶たなくなる。この活躍は上層の特権階級ですら無視できない出来事で、議会は飛空艇を駆る飛空艇乗り及び蒸機士を育成する育成機関と専門組織「キャメロット」を設立し、さらに都市の運営を担う重要機関と考えて議会に彼らだけの席を置いた。それだけ彼らも無下にはできない存在となったのだ。


 現在、蒸機士及び、飛空艇乗りになるには、いくつかの道がある、1つはキャメロットが運営するアカデミーに通う事、そこで技術と知識を学び修了し、キャメロット直営の飛空艇団に入ることだ。もう一つはそこから独立したフリーランスの飛空艇団に弟子入りし住み込みで学ぶことだ。時代の人である飛空艇団は人手が足りず下働きでもいいというなら団員を募集している、それは貧しい労働者にも同じだ。飛空艇団はフリーランスでもキャメロットに所属する公的な技術職で生活環境も整っている。その為下働きでも飛空艇団を点々としながら、技術を磨きある時正式な団員として迎えられた人だっているのだ。


 蒸機士になるには、アカデミーの専用コースを修了する必要がある。飛空艇乗りの知識だけでなく、機関砲や戦闘技術も必要で、また特筆した技術や家柄も必要だ。その上で直営の飛空艇団で経験を積み、実力が認められ推薦された者たちが選ばれるのだ。飛空艇団員として実力と名声を上げ推薦を受けて入るという道もあるが現実的ではない、だからこそ、蒸機士はロンディウム中の人々の憧れでヒーローなのだ。彼らの活躍は新聞やメディアを通じて連日の様に報道されている。


 以上が、ロンディウムの紹介である。蒸気機関文明の繁栄がもたらす文明の恵み、プリトウェン達がもたらす失った大地への帰還への希望と、彼らを熱烈に支持する人々の狂信的な期待。彼らはそれを熱望した。


 それは、いつの間にか彼らを盲目的にした。蒸気の排煙に閉ざされたのは彼らの目も同じだった。それは、若い頃の私も同じだった。しかし、私はある者たちの出会いによって目が覚めた。蒸機士達が、権力者たちが排煙の海原の底に隠す秘密を暴かんとする者たちによって。

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