証言
あれから、俺たちは何度も二人で出かけた
日本で一番高いと言われるビル、サテライトタワーの展望台から夜景を眺めたり、海星大橋とは別の大橋、太骨大橋でゆったりとした時間を過ごしたり。
どちらかといえば、少し落ち着いた場所が多かった。お互い人の多いところを好まないからだ。
ついこの前なんかは、大穴山へと山登りに行き、頂上まで登った。彼女は意外にも体力があるようで、俺が息を切らしながら歩いていても、汗をかいている様子すらなかった。
もっとも、相変わらず、仕事の調子は芳しくなかったが。ただ、どれだけ叱責されて、大失敗を重ねて、残業に追われていようとも、茜がいることにより、憂鬱から解放された毎日を送ることができていた。
☆☆☆☆☆
「「あの悲惨な大橋の大事故から半年が経ち、今日ブラックカンパニーは異例の記者会見を開きました。」」
「「ブラックカンパニー者会長でございます。」」
「「あれは、そもそも我々の不手際による事故ではないのです。その証拠を提示しようと今晩、記者会見を開かせていただき……。」」
ニュースでは半年前に起こった、未曾有の大事故について放映されていた。俺が生で目撃した未だ記憶に新しい事件である。しかし、今俺はそのニュースへと関心を寄せていなかった。
(これで良いか?)
できる限り部屋は片付けたつもりだ。逆に綺麗すぎるのは違和感があるかもしれないが。
(それにしても、いよいよこの日が来たか……。)
俺は彼女を家へ招くこととなった。
(驚くほど、とんとん拍子に関係が進展していったな。)
とは言え、あのディナーの日から半年は経つのだ。むしろ、社会人にしては遅すぎるくらいかもしれない。もっとも、俺たちにとってはこのペースが一番丁度良かった。
ピンポーン。
彼女は詐欺訪問以来、二度目のチャイムを押した。
「すいません、夕闇茜です。」
「あ、今開けるから。」
俺はドアを開けた。
そこには、少し赤ら顔をした茜がいた。
「お邪魔します。」
「うん、入って。」
少し気まずい雰囲気が、二人の間に漂っている。
彼女は、リビングにある椅子に腰かけた。
「悠馬の部屋、前よりも綺麗になったのね。」
「前?茜って俺の部屋来たことあったっけ?」
「あ、ごめん。なかった。」
彼女も緊張しているのだろうか。
「お、おほん。それで、どうする?ご飯食べてきたんだっけ?」
「う、うん。もう食べてきた。お風呂も、入ってきた。」
「あ、そう、そうか……。」
話題に詰まった。ここからどのように展開で進めれば良いのか、経験のない俺には分かるはずも無かった。
「「このインターネットに出回っている動画をご覧ください。」」
ふと、耳にニュースの音声が入ってきた。僥倖だ。
「ぶ、ブラックカンパニーの記者会見だって、ちょっと見てみよ。」
「……。」
彼女は、意味ありげにテレビに目を向けた。
「え?これ……。」
俺はテレビを見て、驚愕に顔を歪めた。
なんとテレビ画面に、はっきりモスマンの姿が映し出されていた。誰かがあのモスマンの姿を、動画に収めていたのだ。
「「ご覧の通り、事故が起こる直前、このような化け物が大橋の上に乗っていたのです。姿から考えるに、これは恐らく未確認生物である、モスマンの可能性が高いと結論づけました。未確認生物モスマンは崩落させる能力を有しているとのこと。つまり、今回の事故は建築不備による崩落ではなく、モスマンによって引き起こされた可能性が高いのです。」」
ブラックカンパニーによると本来であれば、与太話、陰謀論として話は片付けられるはずだった。技術的にはCGでこのような動画を作ることも不可能ではないだろう。しかし、目撃証言があまりにも多すぎたらしい。
その後、目撃者による証言動画などが映し出されていた。確かにこれだけの多くの人間がそろって証言しているのなら、モスマンの実在を証明しているとも言えなくはない。
とはいえ、まるで事故の責任を、すべて超常現象に擦り付けようとしていると、記者たちからは大批判を受けていた。
テレビ局側は、これを事実として放送するというよりは、あまりにも不誠実な対応だと非難するようなスタンスだった。タレントたちは、誰一人としてブラックカンパニー側の話を信じていない。それも当然だろう。
「すげえな、これ……。」
だが、俺は違う。直接この目で、モスマンを見たからだ。
「なあ、茜はこのニュースを見て、モスマンのこと信じる?」
「分からない、かな……。」
「……俺さ、こんなこと言っても信じてもらえないかもしれないけど、あの時、見たんだよ、モスマンを。」
「……そうなの?」
「うん。電車に乗ってる時、ふと大橋を見たら、赤い目を持った化け物がいた。そして、その後すぐに、大橋は崩落したんだ。絶対何かしら関係あると思う。」
「その化け物のこと、悠馬はどう思った?」
「どうって、最悪だろ?いっぱい犠牲者は出るわ、建設会社に迷惑をかけるわ。気味が悪いにも程がある。」
「……ねえ、悠馬は私がモスマンだって言ったらどうする?」
「どうするって、怖いこと言うなよ?嫌に決まってるだろ?」
冗談かと思い、つい軽く答えてしまった。
「そう……。」
彼女は一瞬寂しそうな顔を見せたが、すぐに元の顔に戻った。
俺は衝撃的なニュースを見たことで、逆に緊張がほぐれた。
「えっと、じゃあ寝室、行く?」
「ごめんなさい。家に忘れものしちゃって、それだけ取りに行ってからで良い?」
「え?ああ。うん。」
だが、彼女は俺の家に戻ることなく、
それ以来、音信不通となった。
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