凡般

@totorojoji

違和感

 黒板を見つめるのが私の日課である。黒板の黒だか緑だかどちらとも言えない色を見つめていると黒板は私が見つめているところを点にしてぐるりぐるりと回転していく。このまま、別の世界へと連れて行ってくれないだろうかと思っている時、毎回何かが邪魔をしてくるのである。生徒がドアを開く音、ピロンと前に出てくる髪の毛、大体この二つが邪魔をする。

 ある日のことである。私は珍しく、放課後に黒板を眺めていた。朝見ているものとは違い、赤い日を反射して緑や黒に赤が少し混じった色に変化している。それをただ呆然と眺めているとまた、くるりくるりと視点を真ん中にして回っていった。偶然にもその時私を邪魔するものは何もなく、私は我を忘れて見つめていた。気がついた時には夕日は消え、月の光も超え、青と白の空が広がっていた。

いつのまにか日を越してしまったのかと思い、私は家に帰らなくてはと突然の衝動にかられてしまい、それに抗うこともなく、帰りの支度をし、学校を出た。学校を出るとまず、違和感を感じた。普段と同じ道であるはずなのに何かが違う。何が違うのだろうと考えてもそれは目で見てわかるものではないのだとすぐにわかった。犬の散歩をしていると思われる人間が私の視界に写る。それは爺さんであった。この爺さんというのは私の家の近くに住んでいて、世間話をするくらいの仲である。犬の散歩をしているということは早朝なのだろうと思いながら、この違和感に耐えきれず、爺さんに話しかけた。その時だった、違和感の理由がわかったのは。爺さんは気持ちの悪い話をするのである。それは、話の内容が気持ち悪いのではない、話し方が気持ち悪いのではない、話をしている言語が気持ち悪いのである。私と同じ言語を話しているようではある、しかし、発音は同じなのにまったく持って理解できない。知らない言葉に知っている語義が載っかっているのだろうか。爺さんの方にも私の言っている言葉は伝わらない。まさに外国語しか話せない外国人に日本語で話しかけているかのような気分である。私はそんな気持ち悪さから逃れるために、走って爺さんから逃げた。どうなってしまったのかと、爺さんも歳なのかな、私も歳をとるとあのようになってしまうのかなとそのようなことを考えていると、自宅に着いた。古いアパートである。気持ち悪さを感じたまま、時計を見るとまだ、学校に行くまで数時間の余裕があった。爺さんのことを不可解に思いながら、私はテレビでもみて時間を潰そうと思った。その時に、あの爺さんがおかしいのではないと気がついた、おかしいのは世界なのであった。テレビでは爺さんと同様、気持ちの悪い言葉が次から次へと放たれる。ニュースなのだろうか、見出しなど書いてある文字も気持ちが悪い。唯一わかったのは、お天気占いだけであった。私は不思議で仕方がなかった、世界が変わってしまったとおもった。何があったのか、どうしたら良いのか訳もわからず、私は学校のことなど忘れてそのまま眠りに落ちてしまった。起きると夜になっている。気持ち悪さは気が付かないほどになっていて、私は学校に行くのを忘れていたと焦った。時計を見ると、日付が書いてある。今日は休日であった。そこで、昨日のことを思い出した。なぜあのようになってしまったのか、私にはただわからないの一言に尽きるのである。もう消えている違和感を思い出すこともできず、夢の可能性を信じて私は自分の足をつねる。きちんと痛みがあった。テレビをつければやはり、よくわからない言語を話す。番組は同じはずなのに言語が異なる。この気持ち悪さはどのような言葉であっても言語化できるものではない、当人にしかわからないものなのである。この気持ち悪さに耐えられず、私はとりあえず外に出た。外に出て、散歩をしていると古くからの友人に出会った。友人はカメラを持って、私の来た方を見ていた。わたしは友人に話しかけるも、やはり理解ができないようであった。友人はそんな私を見て何かを察したかのように私の手を引きずっと、ぶつぶつブツブツ何かを言っている。何を言っているのだろうか。その後友人は、わたしの手を引いてどこかへ連れて行こうとした。数十分が経ったであろうときである。見たことのある施設についた、そこは学校であった。私の知っている学校はこんなところにはないのだが、そこにあるのは私の知っている学校であった。そんな時、私はある本の話を思い出した。世の中には並行世界があり、私の一つの選択で世界が決まり、他の選択で生まれるはずだった世界は、並行してどこかに存在しているという話だ。私はこの時、この世界が並行世界ではないのかと思い始め、どこで並行世界に行ったのか、普段と異なることをどこで始めてしまったのかと考えていた。そんな時、友人がすごいカタコトで私と同じ言葉を話し始めたのである。とても難しそうである。友人は一生懸命に「君は世界を間違えた」とただそう言って私を学校に連れて行ったのである。その時に普段と違ったあの時のことを思い出した。昨日、自分は黒板をずっと見つめて、普段入る邪魔がその時には入らなかったのである。あの時にこの世界に入り込んだのだとわかった。友人に引かれて、そのまま教室に入った、友人は私を席に座らせそのまま学校をでた。まるで仕事を淡々と進めるサラリーマンのようであり、悪いことがバレかけて誤魔化すこどものような手際の良さでもあった。私はそのままきっちりと座り、普段はしないように黒板を眺め、またあの回転を感じた。そうしたら、気を失っていたのだろうか、気がついたら綺麗な月が私を照らしていた。私は学校を出て、帰路につき、家でテレビを見た。そうすると、テレビは私と同じ言語を話していた。安心して私は眠りにつこうとした時に、私はあることに気がついた。なぜ友人は私が別の世界から来たことがわかったのか、なぜ友人は学校に行けばそれが解決できるのだとわかったのか、それが謎なのである。友人はわたしの近くに住んでいる。あの時とは異なる違和感がまたやってきた、そんなことはないと信じながら私は窓の外を見た。そこにはカメラをもった友人が驚いたかのようにカメラ越しに私を見ていた。その後、警察に報告したところ、友人の家からわたしの写真が大量に見つかったと聞いた。友人は一言「君を守ってあげたのに」と口に出していた。

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