3.基地①
4人を乗せたエレベーターは静かに下りていく。どのくらいの距離を下っているのか、速度はどのくらいなのか、譲以外の3人には皆目見当もつかない。
「基地ってどんな感じなんだ? 俺たちだけなんだろ?」
「そうしたかったんだがな……、色々あって工期が遅れていて、今はまだ工事の連中と補助スタッフが数名居る」
「へぇ」
「と言っても、あと一週間くらいの辛抱だ。基地が完全に稼働すれば俺たちだけになる。おまえ等が基地に慣れる頃には様変わりするさ」
「様変わり?」
基地が様変わりするとは一体どういうことなのか、問うた克己の言葉への返答の代わりに、チンという音が響き、エレベーターが目的階に到着したことを示した。
静かに扉が開き、薄暗い丸い部屋へエレベーターの光が差し込む。
「ここはエントランスだ」
譲が先導しエレベーターから降りる。
何もない部屋だ。あるのは今乗ってきたエレベーターと、少し離れた場所にもう一台エレベーターがあるだけだ。
「ここはこれで完成なのか?」
「何にもない部屋って、変なの」
思わず克己が聞くと、麻里奈も不審気に口を開く。
しかし気にした風もなく、譲はもう一台のエレベーターへ向かった。
「今は何もないが、そのうち変わるさ」
意味が解らずキョトンとする3人をよそに、再びエレベーターへと乗り込む。
今度のエレベーターは全面ガラス張りで、1~5、Rのボタンが付いている。
スッとエレベーターが下がると一気に視界が開けた。
「わぁ……」
「おお~」
「うわぁ」
まず目に入ったのは3階分の吹き抜けに堂々と立つ大樹だ。それから吹き抜けを囲むように配置されている回廊と、煌々と光る照明。ここが地下だということを忘れてしまいそうになる。
再び軽い音がして、下降が止まる。
「着いたぞ」
譲の言葉に、慌てて3人はエレベーターを降りた。
3階であるそこは、大樹を囲むようにテラスになっている。土と緑の匂いが鼻をくすぐり、降り注ぐ照明はまるで太陽の光のようだ。
「いらっしゃい~」
エレベーターを降りた場所には、2人の男性が立っていた。1人は白衣を羽織ったにこやかな20代後半の男性、もう1人はこのご時世には珍しい40歳くらいの体格の良い軍服の男性だ。
にこやかな男性が、歓迎ムード全開で話し始めた。
「日本再興機関特殊能力課へようこそ! 譲君の事だから詳しい説明は何もしてないんじゃないかな?」
にこやかに譲たちへ近づいてくる2人。
それを見て、譲は面倒臭そうな顔をした。
「仕事は?」
「新人さんの案内も仕事の内だよ。それに、部門責任者の僕等くらいは自己紹介した方が良いかと思ってね」
そう言うと、にこやかな青年は克己たちへ視線を向けた。
「改めて、日本再興機関特殊能力課へようこそ。僕は
にこりと微笑み挨拶をした白石は、くるりと後ろを振り返り、もう1人の男へ声をかけた。
「彼は建設部門の責任者で、
そう紹介された神崎は、元居た位置を動くこともせずに、会釈をした。
つられて3人も頭を下げる。
「忙しいところすまなかった。神崎は仕事に戻ってくれ。俺は基地の案内をしたら合流する」
「了解しました」
譲の言葉に、低い声で神崎が応えた。
「それじゃ、おまえらは――」
「良かったら代わりに僕が、基地を案内しようか?」
「アンタが?」
「譲君は早く作業を進めたいだろ? その点僕は今は手が開いているからね」
譲はジロリと白石を見ると、ため息を1つついた。
「解った。案内はアンタに任せる。ただし、処理棟は案内しなくて良い。それから、住居は3階から選ばせろ。俺の部屋は解っているな?」
「勿論」
「後で鍵を渡すから、夕食までにここに来るように」
「了解」
譲は白石に言うだけ言うと、神崎と共にその場を去ってしまった。
何が何やら解らないうちに取り残された3人は、キョトンとしている。
「それじゃ、僕が基地を案内しよう」
「よろしくお願いします」
「敬語はいらないよ。細かい事は気にしなくて良い」
「そ? じゃ、よろしく」
「よろしくね」
白石の言葉に、フランクに笑顔で克己が応えた。その後からにこやかに麻里奈が続く。
が、るいざは克己の斜め後ろに立ったまま、緊張した表情をしている。
「私は敬語の方が楽だから」
そう言うと、少しだけ頭を下げた。
そんなるいざの様子を気にした様子もなく、白石はにこやかに、まずはこの場所から案内を始めた。
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