あなたはしっかり私のもの(1)

 「アントワーヌ様、こちらを見てください!何か気づきませんか?」

「え?うーん……髪型はおそらく同じ、だな。装身具アクセサリーは……付けていない。ドレスが新しい、とか?いや違うな……」

珍しく途方に暮れた様子でアントワーヌは眉をひそめ、首を傾げ、まじまじと妻の全身を眺める。

「降参だ!教えてくれ、答えは何だい?」

マリーは頬を膨らませ、夫の横に立ち、肩を寄せて隣を見上げる。

「背が伸びたんです!ほら、肩の位置をご覧になって。分かるでしょう、前よりあなたとの差が縮んでいますわ!」

長身の夫は虚を突かれ、息を呑み動きを止める。

「そうか……君はまだ十代だものな。成長して、大人になっていくのか」

三十路に入った男は得意げに隣に立つ少女を眩しそうに見つめる。

「参ったな」

「どうかなさって?」

「なんでもない」

アントワーヌはゆっくり息を吐いた。


 結婚から2年以上経ち、マリーの16歳の誕生日が過ぎた冬。

アントワーヌは数日前からいつになく挙動不審だった。

「なにか隠してらっしゃいます?最近ご様子がおかしい気がしますわ」

「そんなに分かりやすいのか?我ながらみっともないな……」

大きく息を吸う。

「君と……もっと親密になりたい。その、夫婦として。君が一般の婚姻年齢、16歳になるまではと思って今まで我慢していた。私の妹は15で天に召されたし、君に万一のことがあってはと……」

マリーが言葉の意味を理解するまで一瞬の間があき、一気に顔を赤らめる。

「そうでしたの⁉てっきり私が子どもっぽくて、魅力がないからだと」

「そんなわけないだろう!……ああ、声を荒げてすまない」

夫は律義に謝る。


 きまり悪さをごまかすためか、彼はいつになく饒舌で、堰を切ったように語る。

「ジャックが、お義父さんが、君との縁談を持ってきてくれた時、新しい家族ができると嬉しかった。16歳で妹を失ってから家族は父と叔母、祖母だけで、私はずっと最年少者だった。ジャックを父と呼べるだけでなく、君の兄弟、バルタザール、クリスチャン、ジョゼフが私の兄弟になるのだ、と。何より君が、愛らしいマリーが家族になってくれる。君の意に染まぬ縁談が、巡り巡って私に思いがけない幸運をもたらしてくれたと」

一気に話し、ようやく息を継ぐ。

日頃のまめな文通ぶりから彼が身内を大切にしていることは察していたが、これほどに同年代、年下の家族を切望していたことを知りマリーは驚くばかりだった。


 「最初は本当に、妹のように思っていた。聡明で可愛いらしい妹。私の話に目を輝かせ、研究を手伝ってくれる優しい少女。何よりも大事な家族。私が守り、助け、大切にするのだと」

「だが君は、日に日に美しく、大人の女性になる。傍にいる君の香りが、触れる手が、見飽きない豊かな表情が、私の名を呼ぶその声が、心を騒めかせ、体を疼かせる。……妹ではないと」

アントワーヌの瞳の熱がマリーを捕らえて離さない。

何年も同じ空間で過ごしてきたのに、別人を見る思いで視線を逸らせない。

「マリー、君の名を、その音を口にすると胸が高鳴る。こんな感情は今まで経験したことがない……君にもっと触れたい」

「明日は休みだ。どうか一緒に夜を過ごしてくれないか?」

「はい……」

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