あなたはしっかり私のもの(1)
結婚から2年以上経ち、16歳の誕生日が過ぎた冬。
夫は数日前からいつになく挙動不審だった。
「なにか隠してらっしゃいます?最近ご様子がおかしい気がしますわ」
「そんなに分かりやすいのか?我ながらみっともないな……」
アントワーヌ様は大きく息を吸う。
「君と……もっと親密になりたい。その、夫婦として。君が一般の婚姻年齢、16歳になるまではと思って今まで我慢していた。妹は15で天に召されたし、君に万一のことがあってはと……」
言葉の意味を頭が理解するまで一瞬の間があき、一気に顔が熱くなる。
「そうでしたの⁉てっきり私が子どもっぽくて、魅力がないからだと」
「そんなわけないだろう!!……声を荒げてすまない」
夫は律義に謝る。
きまり悪さをごまかすためか、彼はいつになく饒舌で、堰を切ったように語る。
「ジャックが、お義父さんが、君との縁談を持ってきてくれた時、新しい家族ができると嬉しかった。16歳で妹を失ってから、家族は父と叔母、祖母だけで、私はずっと最年少者だった。ジャックを父と呼べるだけでなく、君の兄弟、バルタザール、クリスチャン、ジョゼフが私の兄弟になるのだ、と。何より君が、愛らしいマリーが家族になってくれる。君の意に染まぬ縁談が、巡り巡って私に思いがけない幸運をもたらしてくれたと」
一気に話し、ようやく息を継ぐ。
日頃のまめな文通ぶりから夫が身内を大切にしていることは察していたが、これほどに同年代、年下の家族を切望していたことを知り驚くばかりだった。
「最初は本当に、妹のように思っていた。聡明で可愛いらしい妹。私の話に目を輝かせ、研究を手伝ってくれる優しい少女。何よりも大事な家族。私が守り、助け、大切にするのだと」
「だが君は、日に日に美しく、大人の女性になる。傍にいる君の香りが、触れる手が、見飽きない豊かな表情が、私の名を呼ぶその声が、心を騒めかせ、体を疼かせる。……妹ではないと」
瞳の熱が自分を捕らえて離さない。
何年も同じ空間で過ごしてきたのに、別人を見る思いで視線を逸らせない。
「マリー、君の名を、その音を口にすると胸が高鳴る。こんな感情は今まで経験したことがない……君にもっと触れたい」
「明日は休みだ。どうか一緒に夜を過ごしてくれないか?」
「はい……」
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