第17話 旅行

彼と結婚してから1ヶ月。

私たちは順調に夫婦生活を送っていた。


しかし彼は少し私への束縛が強く、

大柳さんと引き離そうとしていた。


実際伴世があの大柳さんに敵うはずもなく、また私たちは百合の計画のために関係を絶つわけにはいかなかった。


「大柳、明日からの新婚旅行だが

まさか君まで着いてこないよな?」


私は緊張しながら大柳さんを見た。


「いえ、他の弦堂家の護衛の方々と共に

私も同行する予定ですが。」


「今回はその護衛とやらは置いていく。

だから、君も来なくていいよ。」


「しかし...」


「なんだ、僕と百合がハネムーンベイビーをつくるところを見たいのか?」


「ちょっと伴世さん...」


大柳さんは深々と頭を下げて部屋を出て行った。


「伴世さん、さっきの言い方は失礼よ。」


「あれぐらいじゃなきゃ、あの人にいつまでも君の保護者を気取られても気分が悪い。

君には僕がいるのに。」


「でも、大柳さんには本当にお世話になってるの。私の大切な人を無碍にしないで。」


伴世は機嫌を損ねたようで、黙り込んだまま私の手を取り結婚指輪を撫でた。


「いいか?君は弦堂家のご令嬢である前に僕の妻なんだ。君が1番優先すべきは夫であるこの僕じゃないのか?」


「...そうね。」


伴世は私の首元に顔を埋め、

私を幸せそうに愛でた。


私は笑顔を作るしかなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


私たちは2人でハワイへやってきた。


この新婚旅行は百合を愛する彼にとってはとても大切なものだろう。


でも私にとっては今まで培った英語を試す場でもあった。幸い彼は英語が堪能ではなかった。



From what time can I check in?

[何時からチェックインできますか?]


Let me see… Is this champagne from Paris?

[このシャンパンはパリ産ですか?]


大柳さんと1から特訓したことが存分に活用できて私は意気揚々としていた。


「百合、なんだか機嫌がいいな。」


「そう?楽しみにしてたから。ハワイ。」


「君には日本よりこっちの方が肌に合うのかな。」


「そうかも。ふふっ。」


こちとら生まれながらの日本人だが。


伴世に2人で夕暮れのビーチを歩こうと言われとぼとぼとホテルから出て街へ出かけた。


ビーチまで歩くには少し遠いようで

タクシーを呼ぶことにした。


「いつまでも君に頼るわけにも行かないからね。日本人の運転手を手配したんだ。」


「日本人?そんなサービスがあるのね。」


「君はビーチに着くまでゆっくり足を休めてよ。」


こういう気遣いのできるところは伴世の頼もしいところだと思った。



まもなくしてタクシーがやってきた。

顔はよく見えないが50代くらいの日本人男性だった。


「クヒオビーチまでお願いします。」


「はい、クヒオね。」


その運転手は運転中ずっと黙っていた。


「クヒオビーチの夕日は綺麗ですか?」


伴世が口を開いた。


「ええ、そうですね。波も穏やかですし。

家族連れにも人気ですよ。」


運転手の対応は素っ気なかった。


まもなくビーチに着いた。


伴世は少し気分が悪くなったようで代金を払うとすぐに降りて行ってしまった。


私も降りようとすると、運転手が急に振り向いた。



「麗華。お前、麗華だろ?」



それは父だった。





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