第16話 結婚式
日永伴世との結婚はほぼ確実なものになった。
元を辿ると、先代の弦堂グループ創設者は下町工場出身で上流階級出身などではなかった。
よって弦堂家は権力や派手な暮らしに執着が強く、政界へのパイプを握ることもその中に含まれていた。
『本当に嫌だと思ったら結婚なんてしなくてよい。』
これは百合が私に残したミッションの2つ目である。
私は百合の母親である麻美さんのためにも、弦堂百合の権威を高めるためにも、
必ずこの結婚を成し遂げるつもりだ。
「百合、最近は何してる?」
電話越しの伴世とはもう百合と呼ばれるほど親しくなった。
「最近はお買い物したり、前に話したすみれさんとゴルフにも行きました。
あ、カラオケにも行きました。」
「百合、もう敬語はやめてくれよ。
逆に恥ずかしいから。」
「だって伴世さんは私と8歳も歳が離れてるし、それに立派な政治家の先生と話す機会なんて私には滅多にないんだから。」
「先生ねぇ。
それよりカラオケって?友達と?」
「えっと、普通に付き人と。」
「それって大柳って奴?」
「...はい。」
「まぁいくら付き人といえども親しくしすぎるなよ。じゃあまた連絡する。」
「...」
いくら伴世でも大柳さんを奴呼ばわりされると不快だ。
彼と親しくなるほど思ってもみなかった本性が垣間見える気がしたが、それに気づかないふりをする自分がいた。
「百合さん...。」
私は静かにソファに座り込んだ。
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式当日。
オートクチュールの煌びやかなウエディングドレスに身を包み、私は花嫁の待機室にぽつんと座っていた。
「君の友人は来ないのか?」
「結婚すること教えてないの。
みんなアメリカで忙しくしてるのに日本に呼ぶのが申し訳なくて。」
「そういうものなのか?」
「あなたの友人は沢山いらっしゃるのね。」
「小中高と一貫校だったから、付き合いが長いんだ。親父も顔が広いし。」
伴世は私をじっと見つめた。
「なに?」
「綺麗だ。この世で最も。」
突然の甘い言葉に私は思わず顔を赤らめてしまった。
「早くみんなに僕のお姫様を自慢してやりたい。」
この結婚には不安しかなかったが、
彼が百合を愛していることは間違いなかった。
私と伴世は豪華な式場で愛を誓い、
大勢の来客の前でキスをした。
もちろん、ここでのキスが初めてではない。
私は彼を愛していなかった。
でも百合ならきっと彼を愛しただろう。
披露宴に入ると、伴世の友人が押し寄せてきた。
皆、麗華だった時の高校時代を思い出すような人間ばかりだった。
伴世は私との結婚になぜかとても得意げで満足そうだった。
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式が終わり、私たちはホテルのスウィートルームに泊まった。
「はぁ、やっと終わった。」
「お疲れ様。はい、水。」
「ありがとう。
伴世さんの友達、みんな面白い人で楽しかった。」
伴世は笑った。
「気づかなかったのか?」
「え?」
「大抵の男どもは君に色目を使ってたけど。」
「色目って、、私は新婦でしょ?
結婚式でそんなことする人がいる?」
「百合だからだよ。
財閥家の容姿端麗な若いご令嬢。」
「...」
「女たちも、ふっ、あの表情見たか?
あいつら化粧も服も気合い入れてきただろうに、ウエディングドレス姿の君なんてみたらぐうの音も出ないだろうね。」
「そんな言い方...」
「なんでそんな顔するんだよ。
最大級に君を褒めてるんだよ。なぁ?」
「あなたって酒が入ると饒舌になるのね...」
そのまま伴世はベッドに倒れ眠ってしまった。
私たちの初夜はあっけなく終わった。
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