第15話 休日

今日は久しぶりに何も予定がない日だ。


「大柳さん、今日お時間ありますか?」


「はい。麗華さんのお仕事がないので私も特にありませんが...」


「じゃあ、一緒にカラオケ行きません?」


「カッ」


大柳さんは黙り込んでしまった。


「いくら付き合いが長くなってきたとはいえ、大柳さんは百合さんのために私をサポートしているんですよね...ほんと、調子乗っちゃってごめんなさい。」


「ああ、いえ、決してそういうわけではありません!私20年前の学生時代に一度行っただけで経験が浅いので少し不安で...」


私は大柳さんの見た目に似合わない健気な姿に思わず吹き出してしまった。


「どうして笑うのですか!私は真剣ですよ!」


「ごめんなさい。でも、そんなカラオケに真剣になられると。ちょっと、ぷっ、おかしくて。」


「もう行きません!」


「え、ちょ、それは嫌です。」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



結局私たちはカラオケにきた。

というより私が強引に大柳さんを連れてきた。


勢いで誘ってしまったが、よく考えると中年男性と個室に2人きりという状況。

初めは少し気まずかった。


それに私は大柳さんは私が思っていたより若く、『20年前の学生時代』という言葉から推測すると40代前半くらいだ。


「1曲目何歌います?」


そう言って大柳さんを見ると、彼はカラオケの仕組みをもう理解したようで、タッチパネルを軽やかに操作していた。

カラオケ未経験者のはずだが....。


「ひとまず、タッチパネルで飲み物が頼めるようなので適当に注文しておきました。」


私は開いた口が塞がらなかった。


「あ、すみません。

 ご自分で頼みたかったですか?」


「いえ...大柳さんってすごいですよね。」


大柳さんの頭の上には?が浮かんで見えた。



とりあえず私が1曲目を披露し、大柳さんにマイクを渡した。何を歌ってくれるのだろう。


♪〜ジャズ調のお洒落なイントロが流れる。


『Fly me to the moon

Let me play among the stars

And let me see what spring is like…』


ジャスの名曲「fly me to the moon」だ。

深みのある低音の歌声に思わずうっとりしてしまう。


〜♪ 曲が終わった。


大柳さんのスッキリとした顔は

私を見て心配そうな顔に変わった。


私は泣いていた。


「へへっ、この涙は感動の涙です。」


大柳さんはほっとしたように胸を撫で下ろした。


この歌は両親が大好きな歌だった。

いつもあのボロ屋街にひとつしかない、

いつ営業しているかも定まっていないスナックで2人がデュエットしているのを見るのが好きだった。


下手くそな父と綺麗な歌声の母。


懐かしい光景だ。



「それにしても大柳さんは歌もお上手なんですね。」


「若い時ジャズバーで歌い手をしていたことがあります。」




まったく、大柳さんはどれほどの経歴があるのだろう。


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