一転

第13話 縁談

弦堂百合が弦堂家に戻された理由、

それはパーティーや式典での飾りや女好きな社長との交渉に連れて行くためなどではない。


縁談である。


そして今私はその相手である

政治家の日永伴世ひながともよしと2人で食事をしている。


日永伴世は祖父が元総理大臣、父が現大臣職の名門政治家一家の3世である。


年は34歳と百合より8歳年上だが、

今彼の前にいる女性とは14歳差だ。


中年女性に人気の出そうな清潔感のある顔立ちで、オーダーメイドの高級スーツを着こなしている。


「百合さんは最近来日されたそうで。

 日本に来たことは?」


「学生時代に何回か旅行で来たことがあります。」


百合は弦堂家の監視はあったものの何度か日本を訪れていた。

私が百合と会った日だけはお忍びだったらしい。


「アメリカでずっと暮らされていたとお聞きしましたが、日本語がお上手ですね。」


「母が日本人ですし、幼い頃は仕事で忙しい母の代わりに母方の祖母が世話をしてくれていましたから、日本語にもよく触れていたんです。」


百合に複雑な事情があると知っていながら

初対面でずけずけとこういった質問してくるのはこういう類いの人間たちの特徴なのだろうか。


それとも彼も結局百合を妾の子だと見下しているのだろうか。


「百合さんとは良い夫婦になりたいと思っています。こんなことをいきなり言い出して、出会ったばかりで驚かれるかもしれませんが、僕たちはビジネスの駒にすぎません。」


「...」


「単刀直入に言って、僕の政治家人生は百合さんとの結婚によって確かなものになると思います。そのための縁談です。そして、弦堂グループは政治界に大きなパイプ得ることになる。」


「私たちはビジネスの駒...。」


「それでも、僕には百合さんを幸せにできる自信があります。」


「自信?」


「はい、お見合い写真を見た時に思いました。『ああ、この人だ。』と。」


私は伴世の滑稽さが可笑しくてたまらなかっ

た。


「そして、今実際にお会いして百合さんの抱えているとても大きく苦しいものをこの身で感じました。」


「とても大きく苦しいもの?」


「はい、まだ僕にはそれが何かはっきりとはわかりませんが...これから百合さんと夫婦になってもっと知っていきたいと思います。」


「...はい。」


伴世は私が思っているよりも血の通った人だった。私は人を見る目が肥えてないから、政治家お得意の上部の言葉に踊らされているのかもしれない。


でも、どこかで本物の百合が彼と結婚したら彼女は幸せに暮らせていたかもしれないと思った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


麗華が通っていた高校の同窓の集まりにて。


「やーん文香ーーー!久しぶり!

なんかめっちゃ髪伸びたね!

高校の時あんなショートだったのに!」


「久しぶり。のの。

 相変わらずうるさいなぁ。」


「文香はどう?名門女子大生でしょ?

キラキラお嬢様ばっかり?」


「ちゃうちゃう。あんたの方が金持ちばっかりやろ?どうせボンボンのお坊ちゃんに囲まれて楽しくやっとるくせに。」


「えー何それーー。

ふふっ、楽しくはやってるけどー。」


2人は親の恩恵を存分に浴びて大学生活を謳歌していた。


「まぁ、うちの女子大は派手なお嬢さんもおるし、麗華みたいに上品すぎる子もおるよ。」


「麗華...。受験日に行方が分からなくなるなんてね...噂じゃ、死んだか、何かやらかして外国に行ったとか。

保護者も全く学校に出向かなかったし...」


「うちらにもあまり詳しく自分のこと言わんかったしなぁ...。

でも自慢の友達やった...。」


「うん、美人だったしね。

飾りっ気なくて地味だったけど、なぜかみんな麗華のこと気になっちゃって、廊下とか一緒に歩いてるとめーーっちゃ見られた。」


「1年のとき、3年のあのすっごい男前の先輩に声かけられたことあったよな?」


「あった!あったね...」


そう言って2人はなんとも言えない表情で顔を見合った。


「もうやめよや。麗華の話は。」


「でも、、」


「あ、そういえば今日あのあんたが好きやったバレー部の副顧問、えーっと美術の先生、来るらしいよ?」


「えっ!?まじ???やだ私変じゃない?」


「変やない、変やない。

 ほらあそこ、今入ってきた人。」


「きゃーーーーー!!福地ふくちせんせぇーー!」








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