第12話 お疲れ様

食事会が終わり、ホテルのラウンジでソファに座って送迎を待っていると社長の長男の嫁が向かいに座ってきた。

彼女はおそらく百合より1つ下の25歳だったはず。


「あなたは、確かすみれさん?」


「はい!先ほどの食事会ではお話しできなかったのでぜひお話ししたくて!」


彼女は少し地味だが、好奇心は人一倍というか、先ほども薔薇会のあの雰囲気を楽しんでいるようだった。


「私、あの日すごく衝撃だったんです!

夫から百合さんはアメリカではパーティーガールで有名でお金遣いが荒い派手な人だって聞いてたから...」


それを本人に直接言うのもどうかと、

私は少しすみれの人間性を疑ってしまった。


「でも実際百合さんはお上品で華奢で、髪も肌もツヤツヤで、何より私が今まで会った女性の中で1番と言っていいほど美しかったんです!!」


きっと彼女に悪気はないのだろう、無礼な発言と褒め言葉の嵐に私は少し混乱してしまった。


「ありがとう。」


そうお礼を言いかけた時、彼女の夫がやってきた。


百合には従兄弟に当たる人物だ。


「久しぶり、でもないか。百合。」


「...」


「あれ?雅俊さん百合さんともう親しくなったの?」

すみれは不思議そうに首を傾げた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


顔合わせの後、応接間に大柳さんと残った私はあちら側が準備した専門家が籍に関する話をしにやって来るのを待っていた。


そこへ雅俊はやってきた。


「ちょっと外してもらえるかな。」


そう言って彼は大柳さんを退出させた。


「まぁまぁそんな警戒しないでよ。」


私は自分が思うより仏頂面だったらしい。


「僕は社長の長男坊。

つまり、君とは従兄弟だね。」


「それで、

人を払ってまでどういったご用件で?」


雅俊は私の組んだ脚に目をやった。


「アメリカに従姉妹がいるというのは知っていたが俺好みの女だとは思わなかったよ。」


彼はそう気持ち悪い冗談を言いながら私の前に立ち座っているソファに手をかけてゆっくりと顔を近づけた。


嫌悪と懐かしい吐き気がもよおす。


私の髪を耳にかけ、


「困ったらいつでも言え。俺は弦堂グループの跡取り最有力候補なんだ。」


と囁いた。


私は彼の手を勢いよく払い、


「私もあんたみたいな人間をよく知ってるわ。親の財力や権力を自分の力だと勘違いするクズをね。」


と吐き捨てた。


「ははっ。あの女もお前ぐらい気が強ければこの家で生き残れただろうに。」


彼は母を知っていた。


「俺の妻とは仲良くしてやってくれよ?

あいつ百合百合うるさいんだよ。」




ーーーーーーーーーーーーーー


「百合さん、それではまた!」


すみれは無邪気に私に手を振り、雅俊と車に乗って行った。


すると待機していた大柳さんの車が後ろからやってきて私は車に乗りシートベルトをしめた。


「お疲れ様でした。無事に終わりましたね。」


「はい....」


「いかがしましたか?」


「...」


「麗華さん?」


「...ああああああもうっ!

 やっぱり弦堂家の奴らウザすぎるっ!!!

 もう無理ーーーー!」


今年1番の大声に

私は初めて大柳さんの意表を突いた。










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