第11話 薔薇会の棘
散々な顔合わせから数日、私は弦堂家の薔薇会の集まりに出席することになった。
薔薇会とは、弦堂家の奥様の集まりである。
全くなんて恐ろしい会なのだろう。
「大柳さん、私、セレブの中年女性の会話がこの世で最も怖いんです。あの笑顔と皮肉とマウントが飛び交う感じ...。」
ヘアメイク中の私が怯えながらそう嘆くと、
後ろで紅茶を嗜んでいる大柳さんは呆れたように笑った。
「弦堂家の奥様方はそんな方々ではございませんよ。」
「ならいいんですが、でも、、」
「もっと恐ろしい方々ですから。」
「ちょ、大柳さんの意地悪!!!」
大柳さんはどこまで弦堂家に精通しているのだろうか。そしてどうしてこうも茶化すことが好きなのか。
私が興奮して動きが激しくなると、
ヘアメイクを担当しているスタッフが不機嫌そうに顔をしかめた。
「あっ、ごめんなさい...」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
豪華な食事に高価なワイン、そして豪華な洋服とジュエリーを身につけた女性たちがホテルのレストランの個室に集まった。
テーブルの頭に座るのは会長夫人。
唯一の和装、きっと彼女だけが許された和装だろう。
奥から順に
会長夫人、
社長夫人、
副社長夫人、
そして百合の父親の本妻、
会長の甥の妻、姪
跡取り筆頭の社長の長男の若妻、
計7人がテーブルに並んでいた。
私はヒールの音を響かせて部屋に入った。
「本日はお招きいただき有難うございます。」
会長夫人はにっこりと笑った。
「よく来てくれたわね。
あなたの席はここよ。」
そう言って夫人は自分に1番近い席に私を招いた。
大柳さんいわく会長夫人は弦堂家で唯一人柄がよく穏やかな人で、百合の帰国を祖母として心から待っていたらしい。
私が席に座ると他の嫁たちは私が会長夫人の横に座るのは気に入らんとばかりに私を睨みつけた。
「先日は少し気まずく終わってしまったけれど、今日はあなたと親睦を深められたらと思ってこの会に来てもらったのよ。」
「はい。実は私も先日のご無礼を謝罪したいと思っていました。皆さんで私を迎えていただいたのに...本当に申し訳ありません。」
その謝罪はお祖母様に向けてだけは本心だった。
「こんなことを言っても信じてもらえないだろうけれど、私はあなたのお母さんが本当に大好きだったのよ。」
百合の父親の本妻のグラスを取る手が止まった。
そして社長と副社長の嫁たちはなんとも思っていないような顔で少し眉をひそめた。
「麻美さんはとても素敵な女性だったわ。
この前の顔合わせだって皆あなたが想像以上に母親譲りの美人だから驚いて...」
耐えかねた社長夫人が話を遮った。
「御義母さま、お料理が冷めてしまいますから、まずは乾杯いたしましょ。」
「そうね、
皆さんグラスを持ってちょうだいな。」
私は設定上26歳だが体はまだ20歳だ。
そのため最近覚えた酒もどうとなく飲むふりをしなければいけなかった。
食事が進むと皆から質問が飛び交った。
副社長夫人は副社長に似て出しゃばる性格のようで、酒もまわってかかなり鬱陶しい。
「百合さんの今日のワンピース、国内で3着しかない限定品よね。私も買おうとしたのにとっくに完売よ完売!あなただったのね〜」
「まぁ、いくら26歳でもお肌がぴちぴちすぎじゃないあなた。さぞかしアメリカで高い美容医療でも受けてたのね!」
私はお祖母様の手前いつもの生意気を出せなかった。
副社長夫人は言いたい放題だ。
会長の姪はこの中で唯一会長の血縁者だからだろうか、見るからにプライドが高いようだ。
「百合さん、あなたはアメリカの大学でどういった勉強を?」
「現代芸術を専攻していましたが、
経済学や政治学も2年学びました。」
「そう、そのお勉強を日本で使う機会があるといいのだけれど。」
明らかな皮肉に嫁たちは内心面白がり、
お祖母様は申し訳なさそうに私を見つめた。
その眼差しはどこか母に似ていた。
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